第9話

文字数 937文字

人の心

「お前には人の心がないのか!」
「あるわけないだろう。俺は惑星1046系星灰地区から地球に来た所謂異星人というやつなのだから」
「いやそうじゃなく」
「そもそもだな、このやり取りも何度目になると思っているんだ?その度に俺がこうやってわざわざ訂正をして、もしかしてお前記憶でもなくなっているのか?」
 そいつ、友人である多田野 過(これは地球、日本用の名前らしく本名はどれだけ頼んでも教えてくれない)は髪の毛の間から伸ばした触手で俺の額を小突く。こういう所、人間らしくなったなあと考えてしまうあたり俺の考え方は古いんだろうなと思ってしまう。いや、そうじゃなくて。
「そうじゃなくて!俺を慰めろって言ってんの!」
「慰めるも何も失恋しただけだろう、というか何回目だよ」
 あ、口調が砕けた。俺はこの口調が碎ける瞬間がなんとも言えず好きだったりする。いけない、すぐに考えが横に逸れてしまう。こいつと話しているとこうなってばっかりだ。
「15回目だよォ!!慰めろ!!連敗を!!」
 俺が机に拳を叩きつけながら言えば過はハッと鼻で笑う。
「おめでとう、キリがいい数字じゃないか」
「祝えって言ってない!!」
 なぜだ、どうして。どうしてこうも失恋記録が続くのか。自分でも相手の子とはいい雰囲気になっていたとは思っている。それなのに毎回断られるわけで、オマケに決まってその言葉は「ごめんなさい観賞用なの」だ。なんだ観賞用って!俺の顔面が良いってことか?!ありがとよ!でもそうじゃないんだよなあ!
「そうじゃないんだよォ……」
 べそつきながら言葉を漏らすと過がコツコツと指先で机を叩く。こっちを見ろの合図だ。仕方なく視線をあげると、過はこちらを見ようともせず窓から外を眺めながらこう言った。
「今は俺がいるから良いだろ」
「……ッ!!過~~!!そう言ってくれるのはお前だけだよ!!」
 俺は感極まり少し照れくさそうに言う過の珍しく無防備な手を無理やり掴みぶんぶんと振り回すのだ。
そんな過との長く続くと思っていた友情はある日突然過が母星に帰ってしまったことで終わりを告げ、そして2年後の社会人1年目の俺の一人暮らしの部屋の前で立っていた過(どうして知っていたのかは今でも分からない)と俺との友情は再開するのであった。
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