第7話

文字数 776文字



 月からやってきた彼女は天女のように美しかった。陶器のような肌に桃色の頬、流れるような黒髪は吸い込まれるようで、両の瞳は宝石のように美しかった。窓から外を眺めているだけでその様は絵姿のようだった。なぜ彼女が我が家にいるのかと言うと昨晩に話は戻る。昨晩は風が強く窓を叩く音が激しかった。風が窓を叩く合間にコツコツと断続的に叩く音が聞こえ恐る恐るカーテンを開けたら彼女がふわりと浮いていたのだ。宇宙服のようなものを着てフープ型のイヤリングに宝石がいくつかついたブレスレット、あとは美しい美貌。思わず見とれていればコンコンと窓をノックしてきたので窓ガラスを開けると彼女が飛び込んできてぎゅうと抱きついてきたのだ。そうしてニコニコと微笑みながら聞き取れない言葉で話しかけてきたのだが、その言葉が分からずに首を傾げると彼女も同じように首を傾げ、「ア、アー分かリますカ?」と日本語を発したのだ。それに私はこくりと頷くと彼女は嬉しそうに微笑んだのだ。
それが昨日あった出来事なのだが、未だに目の前にいる彼女が本物なのかだとか、宇宙人なのかとか、なぜ浮いていたのだとかいくつもの疑問が脳内を占めている訳だが、それを置いていてもただ座っている姿が様になっているせいでなかなか聞けやしない。
「アキラ」
 名前を呼ばれ意識を彼女の方向に向ければいつの間にか近づいていたのか目の前に彼女の顔があって驚いた。それよりも名前を教えていたっけ、と疑問は湧いてきたが両腕をぐいと引かれたせいでその疑問は吹き飛ぶ。
「アキラ、一緒に、行こウ?」
 開けっ放しだった窓から彼女と一緒に外へ飛び出す。落ちる、と思う前に体はふわりと浮かび彼女がくすくすと笑った。「ダイジョウブ」と彼女は言うと私の手の甲に唇を押し付けビュンと空に向かって飛び進みはじめた。

これが私と彼女の不可思議な旅の始まりだった。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み