第3話

文字数 1,483文字

⑤【実業家】×【児童養護施設で育つ】

 僕の居る児童養護施設には天使がいる。
真っ白な髪の毛に真っ白な睫毛、そして瞳の色は真っ赤だった。
そんなあの子は外に出ることはなくて、ずっと部屋の中で本を読んでいた。一度だけ「一緒に外で遊ぼうよ」と誘ってみたけれど残念そうに眉を下げて「ごめんね」と言われ僕は先生に引っ張られて外に連れ出された。
「先生、どうしてあの子は外で遊べないの」
「そういう病気なの」
「ふうん、外に出たら飛んで行っちゃうかもしれないもんね」
 僕の言葉に首を傾げた先生だったけれど、そのまま僕がみんなの輪に入っていったので追求はされなかった。
僕はそれからあの子に話しかけるようになった。
「今日はいい天気だよ」
「そうだね」
とか、
「君って天使みたいだね」
「そんなこと言われたの初めてだよ」
とか、
「なんの本読んでるの?」
「女の子が不思議の国に行くお話」
とか。
とりとめもない会話を一日一回する程度だった。
それでも僕はそんな会話が楽しかった。
天使のようなあの子は笑顔も天使みたいに柔らかくてその頬っぺはマシュマロみたいだと常々思っていた。
もしかしてこれって恋なんだろうかと思うほどに僕はあの子のことが気になっていた。
気になっていても話しかけるのは一日一回だけにした。嫌われたくなかったから。鬱陶しいって思われたくなかったから。

その日も他愛ない会話をしてる時だった。
あの子が先生に呼ばれて部屋から出ていったのだ。
僕はもう少し話したかったのに残念だなと呑気なことを思いながら外に遊びに行った。
その日からあの子の姿を見ることはなくなってしまった。先生に尋ねれば「お迎えが来たのよ」と言うだけでそのお迎えと言うのがどういうことか分からなくて僕は首を傾げて、そしてもしかしてこのまま会えないのかもしれないのかと思って泣いてしまった。先生は僕を慰めてくれたけど僕は悲しくて先生の言葉が耳に入ってこなかった。
一週間後、あの子が突然帰ってきた。
僕は就寝時間だったから眠っていたんだけれど、先生が起こしてくれた。
僕は嬉しくて嬉しくて駆け寄って「おかえり!」と言ったけれどあの子は眉を下げて「お別れを言いに来たの」と言った。
お別れ?お別れってどうして、帰ってきたんじゃないのとあの子に詰め寄るけどあの子は困り顔のままだった。
「あなたはわたしに優しくしてくれたから、ありがとう」
「もう会えないの」
「分からない、会えるかもしれないし会えないかもしれない」
「そんなの……嫌だよ」
 僕が言った我儘にあの子は「ごめんね」と言うとぎゅう、と抱きついてくれた。そうして数分間抱きついてくれて、離れたあとは僕の涙を指で拭ってくれた。
「行くぞ」
「はい」
 そう言ったのは長身の男の人であの子はその人の元へと駆け寄って行ってしまった。
あの子は車に乗るともう一切こちらを見ずにそのまま施設を出ていった。
僕はやっぱり寂しくて泣いてしまったけど先生たちがいうには実業家でお金持ちらしいから幸せに暮らせるわよということらしいけどそんなの分からないじゃないか。ここにいる方が幸せかもしれないじゃないか、と大きな声で叫んでそしてまた涙を流した。
先生たちは困っていたけれど僕も自分の感情が上手くコントロール出来なくて困っていた。そのままずっと泣き続けて、気がついたら寝てしまっていた。
夢の中ではあの子が本を読んでいて背中には天使の羽がついていた。そして「バイバイ、またね」と言うと僕の手の届かない高さまで飛んでいってしまったのだ。
待って、と叫びながら目を覚ました僕の頬は涙で濡れていた。
僕の天使はその日居なくなってしまったのだ。
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