第10話  世界はすべてキミのもの ※残酷表現あり

文字数 1,407文字

「ヴィー……だいじょ、うぶ」
「どうして、どうしてルーイ」
顔布を外した少女がアクアマリンの瞳から涙の輝石を零しながら従者の名前を何度も呼ぶ。従者、ルーイは胸を真っ赤な血で濡らし浅い息を繰り返している。横たわったルーイの身体を少女は支え変わらず涙の輝石を零し続ける。少女はこの世界に数人しかいない瞳が宝石でなり涙が輝石になる人種でこの新興宗教で悪行に手を染めている、というのが世間での評判だった。それに困った住民たちから殺害依頼が来たのだ。証拠には瞳をくり抜いてこいと。
それがどうだ。少女に向けて放った刃の前に立ちはだかったルーイがその刃を受け血塗れの瀕死の状態になり、それに少女が泣いて縋っている。
俺は何かを間違えたのか。
いや、依頼に正義も悪も関係ない。
俺は自分の仕事を全うするだけだ。
「教祖様、あんたにはなんの恨みは無いがその瞳頂いていく」
「あなた、どうせ、村のヤツらの差し金なんでしょう」
少女の声が震える。瞳からは輝石が落ち続ける。
「あいつら、許さない」
「ヴァネッサ……」
ルーイの言葉を無視し少女、ヴァネッサが顔を上げ振り返った。
そこで驚愕した。アクアマリンの瞳だと聞いていたそれが虹色に煌めいてきたのだ。
まとめあげられていた筈の髪がはらりと落ち地面に広がる。ざわり、と第六感のようなものを感じた気がした。その場を後ろに飛び跳ねることで避けたのが幸いしたのか今までいた場所が腐食していた。なんだこれは。
呪いなのか、瞳が宝石になる人物だけがもつ能力なのか。俺の脳内は急速に回転しどうすれば良いのかを考えていた。
「この瞳を贄に村人たち全員を呪うわ、あなたには生き証人になってもらう」
「だめだ、ヴァネッサそんなことしたら」
「ルーイが助かるのならこの瞳なんていらない」
そう言うとヴァネッサは自身の両の指で瞳をくり抜いた。ぷつりと小さく細い指が宝石をくり抜き真っ赤な血が涙のように流れ落ちる。
「おい!」
「一つ目の神よ、私の願いを叶えて」
俺の制止を振り切りヴァネッサは願いの言葉を告げる。
すると教団のシンボルである一つ目の像の目玉が光り、ヴァネッサの瞳に光が降り注ぎ虹色の光が消えうせる。
「ヴァネッサ!」
「どこ、ルーイ……」
ヴァネッサが虚空に向かって手を差し伸ばしその手をルーイが握りしめる。どうやら瞳の力を犠牲にルーイの深手は治ったらしい。果たして瞳の力なのか村人たちの命の方なのかは今の段階では分からないが。
ルーイがヴァネッサを抱き留めその体を抱えると色を失った宝石、クズ石を二つ手に取り俺の方へと放り投げた。
「これを見せれば満足するはずだ、まあもう村人共はいないだろうがな」
俺はコツンと目の前に転がったクズ石を警戒しながらも手に取ると腰のポーチにしまった。依頼達成の報酬はこれで受け取ることが出来るだろう。ルーイの言う通り村人は居ないだろうが、ギルドから報酬がおりる。
「二度とここには近付くな、俺たちに関わらないでくれ」
ルーイの言葉は冷ややかだった。本当に近づいて欲しくないのだろう。俺だって二度と近づきたくはない。
「……わかった」
こくりとひとつ頷き教団を足早にあとにした。

村に戻った俺が見たものは想像通りだった。
村人たちは一人残らず倒れその表情は苦しみに歪んでいた。ヴァネッサの瞳を狙った村人たちの画策だったのか、それとも本当に新興宗教として悪行を働いていたのか真相は定かでは無いが、なざだか後者のような気がした。
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