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文字数 1,453文字
卵回収当日の未明、保健所前の駐車場で、広瀬は、小型バスを運転する東坂と環境整備課の課長、ハイエースバンを運転する万屋のおかみさんと朝霞に、それぞれ卵回収ルートの地図と回収した卵のトロ箱番号をチェックするリストを渡した。
「ゴミ収集車の巡回経路問題って知ってる?」
「なんですかそれ」
広瀬の言葉に怪訝な顔をした朝霞に、村長が呆れた顔を向けた。
「最短ルート最短時間で効率的に回収するにはどうしたらよいか、という問題だな。それくらいなら、ワシでも解るぞ」
村長は、広瀬と一緒に保健所の公用車に乗ることになっていた。
ちょっと自慢気にしている村長を一瞥すると、広瀬は事務的に段取を述べた。
「効率的に取りこぼしの無いように回収するために、巡回ルートを決めてチェックリストも作ったから、このように回収していただければオッケーです」
回収時間は、抱卵要員に予め連絡してある。卵はトロ箱ごと回収することになっていた。
ペンギン型宇宙人に翻弄されたのは、実質三週間弱。長いんだか短かったんだか解らないが、最初に宣言した通り一月にはならなかった。それぞれ車に乗り込み、回収に向かう。
「村長、実は、ペンギンが変なこと言ってまして……」
運転しながら広瀬が村長に話し出した。
「船が不時着してから二十八日後に天候不順があるって言うんです。もう、あと一週間後ってことになるんですが、台風の季節ではないし、何のことを言っているのやら……。ただ、ペンギン型宇宙人が回避すべきと判断したから、今回我々に卵を押し付けて船の修理を優先する事態になったそうなので、ちょっとこちらも気にしておいたほうがいいのかも、と思います」
「ほう……。そんな理由があったんですね。……天候不順ですか……」
村長は顎に手を当てて考え込んだ。
卵の回収が一番多かったのは小型バス組だが、集合住宅で回収をするのでそんなにまわる範囲が広いわけではない。車は三台とも大体同じ時刻に現場の駐車場に辿り着くことができた。事前に会って説明していた分、回収も申し分なく順調だった。
「やっぱ、広瀬さん、こんな僻地の保健所勤務なんて勿体ないですよ」
朝霞がぶーたれると、広瀬はこれくらい小規模が丁度いいのよ、とうそぶいた。
六人は、まずペンギン型宇宙人の船の前に来た。初めて船を見る課長と朝霞、万屋のおかみさんは目をまん丸に見開いて氷の塊を見上げた。
「これって、どこから入るんですか?」
朝霞が船体を眺めまわしながら言うと、氷の塊の下の方に小さな窪みができた。
やがて、一匹のペンギンが姿を現した。体を揺すりながらペタペタと近づいてくると、フリッパーを振りたてて口を開いた。
「人間よ。ご苦労だった。これから卵を回収するが、我々の翼では卵を運べない。それぞれの親が案内するから、卵を巣まで運んでほしい。よろしく頼む」
そう言い終わると、例の窪みから次々にペンギンが列をなして飛び出てきた。あっと言う間に足元がペンギンの群れで埋まる。口々にがやがやワイワイ騒ぎ立てるので矢鱈と五月蠅い。広瀬は慌ててタブレット端末を立ち上げた。
「親たちは、自分がどこに産み落としたのかを、何で判断してるの?」
「漢字は読めないから、表札を見ても誰んちとかは判らんな。みんな、産み落とした先の家主の顔を憶えているはずだ」
最初のペンギンが頭をぷるるっと振った。
広瀬はたちまち弱り切った顔になった。
「えー、漢字が読めないなんて聞いてないわー。ナンバリングは家主の名前と番地とを連携させちゃったから、困ったなー」
「ゴミ収集車の巡回経路問題って知ってる?」
「なんですかそれ」
広瀬の言葉に怪訝な顔をした朝霞に、村長が呆れた顔を向けた。
「最短ルート最短時間で効率的に回収するにはどうしたらよいか、という問題だな。それくらいなら、ワシでも解るぞ」
村長は、広瀬と一緒に保健所の公用車に乗ることになっていた。
ちょっと自慢気にしている村長を一瞥すると、広瀬は事務的に段取を述べた。
「効率的に取りこぼしの無いように回収するために、巡回ルートを決めてチェックリストも作ったから、このように回収していただければオッケーです」
回収時間は、抱卵要員に予め連絡してある。卵はトロ箱ごと回収することになっていた。
ペンギン型宇宙人に翻弄されたのは、実質三週間弱。長いんだか短かったんだか解らないが、最初に宣言した通り一月にはならなかった。それぞれ車に乗り込み、回収に向かう。
「村長、実は、ペンギンが変なこと言ってまして……」
運転しながら広瀬が村長に話し出した。
「船が不時着してから二十八日後に天候不順があるって言うんです。もう、あと一週間後ってことになるんですが、台風の季節ではないし、何のことを言っているのやら……。ただ、ペンギン型宇宙人が回避すべきと判断したから、今回我々に卵を押し付けて船の修理を優先する事態になったそうなので、ちょっとこちらも気にしておいたほうがいいのかも、と思います」
「ほう……。そんな理由があったんですね。……天候不順ですか……」
村長は顎に手を当てて考え込んだ。
卵の回収が一番多かったのは小型バス組だが、集合住宅で回収をするのでそんなにまわる範囲が広いわけではない。車は三台とも大体同じ時刻に現場の駐車場に辿り着くことができた。事前に会って説明していた分、回収も申し分なく順調だった。
「やっぱ、広瀬さん、こんな僻地の保健所勤務なんて勿体ないですよ」
朝霞がぶーたれると、広瀬はこれくらい小規模が丁度いいのよ、とうそぶいた。
六人は、まずペンギン型宇宙人の船の前に来た。初めて船を見る課長と朝霞、万屋のおかみさんは目をまん丸に見開いて氷の塊を見上げた。
「これって、どこから入るんですか?」
朝霞が船体を眺めまわしながら言うと、氷の塊の下の方に小さな窪みができた。
やがて、一匹のペンギンが姿を現した。体を揺すりながらペタペタと近づいてくると、フリッパーを振りたてて口を開いた。
「人間よ。ご苦労だった。これから卵を回収するが、我々の翼では卵を運べない。それぞれの親が案内するから、卵を巣まで運んでほしい。よろしく頼む」
そう言い終わると、例の窪みから次々にペンギンが列をなして飛び出てきた。あっと言う間に足元がペンギンの群れで埋まる。口々にがやがやワイワイ騒ぎ立てるので矢鱈と五月蠅い。広瀬は慌ててタブレット端末を立ち上げた。
「親たちは、自分がどこに産み落としたのかを、何で判断してるの?」
「漢字は読めないから、表札を見ても誰んちとかは判らんな。みんな、産み落とした先の家主の顔を憶えているはずだ」
最初のペンギンが頭をぷるるっと振った。
広瀬はたちまち弱り切った顔になった。
「えー、漢字が読めないなんて聞いてないわー。ナンバリングは家主の名前と番地とを連携させちゃったから、困ったなー」