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「チラシ、ありがとうございます。参考になりましたわ。娘の小さくなったニット帽が丁度いい大きさだったので、ホカホカな巣を作ってみました」
 
様子を見に来てくれた保健師……広瀬さんと言ったか……に、リメイクした卵のポケットを見せた。

「ほほう……。さすが子育て経験のある方は違いますねぇ」
 キラリと目を輝かせた広瀬さんは、写真撮っていいですか? と言って、デジカメで撮影した。

 ピンクのニット帽に埋もれたツインの卵は、本当にかわいらしい。

「向かいのご婦人は、鍋カバーもかけてましたよ」
「まぁ、それも暖かそうでいいですね」
 
 そういえば、使ってないティーコーゼが戸棚の奥にあったかも。

「どれくらいの卵が生まれてたのですか?」
 
 どうやらペンギンが来たのは我が家だけでは無いようだ。ニット帽を上着の下に抱き込むように納めてから広瀬さんに聞いてみた。娘の話から、学校の子の家庭にはもれなくペンギンが来ていたらしい。子どもが学校に行っている間は、父親か母親が抱卵していると聞いた。仕事先も、抱卵中のためリモートワークしている者がいると夫が言っていた。学校から帰ったら、子どもたちが交替で抱卵するらしい。うちもそうだ。子どもに託した後、ようやく夕飯の支度に取り掛かれる。

「ざっと286個です」
「まぁ、そんなに……」
「久保さんとこと同じようにペア卵がほとんどですから、世帯で言うと147世帯に卵チャンがいます」

「うふふ。皆で温めてるんですねー。楽しいわ」
 ついつい笑みをこぼすと、広瀬さんは、私の顔をマジマジと見た。
「そんな風に思ってくれてる方ばかりならいいんですけどねぇ。悲壮感丸出しで、必死の形相で抱卵してる人もいます」

「あらら……。初めてのお子さんみたいね」
 言ってしまってから、なんて間抜けなこと言ったのかしら、と顔を赤らめた。
「卵を温めるのは、皆、初めてですよね? やだ、私ったら……」

 広瀬さんは僅かに微笑んで応えた。

「週明けあたりに産みの親が卵チェックに来るらしいですから、見せてあげてくださいね」

「はいはい。解りましたよ」
 また、ペンギンさんがうちに来るのね。楽しみだわ。
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