文字数 1,459文字

「島外との通信はできます。ただ、特定のワードが入ると、検閲がはいるんですよ。音声通話でも同じです。通話回線が切れます。メールだと特定ワードが伏字になってしまいます」

 執務室にて役場の職員から報告を受けた村長は首をひねった。
「特定のワード?」

「今のところ把握されているのは『かかえる』『温める』『かえす』とかですね。メールは、伏字になった時点で他の言葉に言い換えればなんとかなりますが、音声通話ではなかなか面倒くさいことになっています」

「ほぉ……」
 そんなに面倒かな? 普段、それらの言葉を意識して使っていないので実感がわかない。
 まぁ、ペンギンとか卵とか、今回の事件に直接かかわりのあるワードは想像つくけど……。

「あ」
 村長は目をパチクリさせた。養鶏場は、大変なことになっているのかも。

「は? 問題なく営業できていますよ」
 村長は島内の養鶏場に電話してみたが、どこも問題ないようだった。島内で完結する回線は検閲対象ではないようだ。ペンギン型宇宙人は、どこでどうやって把握しているんだろう。何気なくネットに繋げて、島内の養鶏場のホームページを閲覧してみた。

「なんじゃ、これは……」

 ことごとく『卵』の文字が『△』に置き換わっている。『〇』だと、卵を連想してしまうからダメなのか。……それにしても、しばらくいじった形跡のない前時代的なホームページデザインだ。作っては見たものの、閲覧するものが少なく、そのまま放置されていたような雰囲気。そもそも心配する必要がなかったのか。

 幸か不幸か、うちの島は大々的な観光施設やら島外に売り出す産物やらが無いから何とかなっているが、仮に観光地の一つでも抱えていたらえらいことだった。

 村長のうかがい知れないところで、まともに迷惑を被っていたのは万屋だ。電話で発注をかけようとすると、通話回線が切れる。最初は何故そうなるのか皆目見当がつかなかった。が、何回か島外業者に電話しているうちに気が付いた。

「ううん……在庫状況話してると電話が切れちゃうみたいね」
 おかみさんが固定電話の受話器を片手に唸っていると、店の自動ドアが開いた。

「おかみさん、こんにちは! 卵の様子を見に来ました」
「あら、美帆ちゃん、いらっしゃい」
 保健師の朝霞だった。

 おかみさんはレジカウンターから顔をのぞかせて、笑顔で迎えた。万屋の即席孵卵器は、おかみさんの足元にある。朝霞は、カウンターの裏側にまわると温度のチェックをしてから、卵をスマホで撮影して広瀬に送信した。

「何か、困ったことや心配な事ないですか? 次チェックに来るのは明後日になります」
 タブレットにチェックした日時を入力してから朝霞は顔を上げた。

 神妙な顔をしていたおかみさんは、卵のことじゃないんだけど、と前置きしてから回線が切れてしまう電話のことを聞いた。
「なんか、聞いてないかしら?」

「あー……」
 朝霞は上目で天井を見上げた。
「役場で聞いたんですけど、島外へ通信する時のNGワードがあるらしいんです。抱卵を連想させる『かかえる』とか『あたためる』とか『かえす』とか……」

 おかみさんは指を立てて目を見開いた。
「それだわ!」

「え?」

「発注電話の時に回線が切れちゃうの!」

「は? ……ああ、あー、そういう……」
 朝霞は目を白黒させていたが、合点がいくと頷いた。
「そりゃあ、『かかえてる』在庫の話とかしますもんね」

「これですっきりしたわー。美帆ちゃんありがとう」  

「はあ……」
 私は、島の外に連絡とるようなこと、ないからなぁ、と、朝霞は口の端を曲げた。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み