文字数 1,088文字

 東坂さんがお風呂に入っている間、預かった卵を広瀬さん特製のポーチに入れて買い出しだ。万屋のおかみさんも抱卵中だが、店番はしている。品出しはもともと旦那さんの仕事だったので、おかみさんが配達出来ない以外は、普通にお店は開いている。

 東坂さんから託された買い物メモは、冷食とカップ麺ばっかりだった。「野菜も食べなきゃ」と言ったら、基本料理はしない人だった。言われてみれば、室内にベッド以外に大型家具がなかった。ベランダに物干し竿がないばかりか、そもそも洗濯機がない。聞けば、島内の不法投棄を処理しにきている本島の業者の人らしい。出向先でこんな目に合うなんて、かわいそうに。洗濯物も預かって、近所のコインランドリーに突っ込んできた。帰りまでに乾燥が終わってるといいな。

「こんにちはー。おかみさん、買い出しに来たよー」

 万屋は子供の頃からの馴染みだ。小学生の時はよく、お金を握って鉛筆やノートを買いに来ていたものだ。

「美帆ちゃん、いらっしゃい」
 レジカウンターからおかみさんが顔を出す。

 おかみさんからすれば、わたしは小学生の「美帆ちゃん」のまま。手元のフリース毛布の塊の中は卵だ。私は、買い物を頼まれている分、籠を並べて買い物メモに合わせてピッキングしていく。今回は三人分だ。男性二人と女性一人。

「ごめんなさいねー。どうにもガサツなうちの旦那に抱卵や宅配なんて任せられなくてさ」
 カウンター越しにおかみさんが謝った。

「いいんですよ。これも仕事ですから」

 おかみさんは、宅配の時、荷物を届けるだけじゃなくて、お客に何やかやと世話を焼いていたらしい。まぁ、宅配を頼むような人は家から出られないからそうするわけで……。旦那さんは、注文の品を運ぶのはできるが、裏を返せば出来るのはそれだけ。品物を小分けにして片づけたり、冷蔵庫まで納めたりしないから、旦那さんの宅配はすこぶる評判が悪い。なんでしてあげないのかは知らない。んで、旦那さんの性格上、評判悪いならやらない、となってしまう。なんでこんな旦那さんと一緒にいるのか、子供の頃から未だに不思議。

 ピッキングが済んでから、籠ごとに会計をしてレシートを貰う。ポーチの卵に当たらないように注意しながら会計後の品物を蜜柑段ボールに詰め代えて、公用車の後ろに乗せる。

 買い出しの商品を届けながら、ペンギン型宇宙人に想いを馳せる。人間だったら、産んだばかりの我が子を、よそ様に預けるなんてとてもできない、と思う。よっぽど切羽詰まってたんだろうな。
 そういや私、ペンギンに会ってないなぁ。ホントに、ペンギンが来たんだろうか? 是非、会ってみたいなぁ。
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