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  ペンギン型宇宙人がピックアップしてくれた抱卵要員が、比較的若い人たちであったことが幸いして、サポートⅠT環境は早々に整備できた。

 それよりも、卵の再分配が問題だった。子どもの居る家庭は「卵増えた!」とポジティブに捉えてくれたし、子無しの夫婦の所もどちらかと言うと嬉しそう。一番割を食ったように感じたのは単身者たちで、「なんで増えるの」と困惑気味だった。

 ペンギン型宇宙人が「抱卵の才能がある」とした順に卵を再配布していくと、どうしても単身者世帯が入ってしまう。一世帯6~8個の抱卵をお願いする。40世帯の内あぶれた世帯は、待機組として控えてもらう。

 朝霞は東坂(とうさか)のアパートに居た。広瀬の言うところの単身世帯の抱卵要員のサポートだ。卵が6個に増えて良かった。東坂が抱卵していたのは布団の中。東坂のやり方で抱卵を代わると、ナント! 水も滴る都会のオトコ東坂の温もりの残った布団で抱卵を交替するという、彼氏無し24歳独身乙女には些か鼻血吹き出す事態になるところであった。

 トロ箱に電気座布団を仕込み、綿毛布を重ねて卵を並べている。東坂が、食事や家事、気分転換をしている間に、朝霞は卵の表面温度を測定しながら転卵する。

 昼食を摂った東坂が、朝霞の分もコーヒーを淹れてきてくれた。都会のオトコは実にさりげなく細やかに気を利かせる。だからこそ、抱卵の才能が開花したのだろう。いや、開花したところでどこで使うんだよって話だが。

「にしても、不思議ですよね。その、ペンギン型宇宙人の行動原理がどうにも理解しがたい」
 東坂は首を傾げた。ちゃんと交代要員がいるので今日はパジャマではない。プルパーカーにシェフパンツという組み合わせ。

「私には、東坂さんたちの行動の方が謎です」
 朝霞は、卵の様子をスマホで撮影して広瀬に報告しながら口を尖らせた。
「なんで卵を見たら、素直に『温めなくちゃ』って思考になるんです?」

 東坂は顔を上げて朝霞を見た。
「朝霞さんは、鳥の巣から卵が落ちてるのを見たら、どうしますか?」

「えー、放置です。鳥獣保護法でそう言うことになってます」

「ですよね。でも、今回は親鳥が目の前で産み落として行ったんです。こっちを見て、『これ頼むわ』って。そうなったらもう、頼まれた方は温めるしかないでしょう」

 広瀬も似たようなことを言っていた。頼まれたから温めている、と。人がいいのか、人がいい人を選んでいるのか、どっちもなのか。では、自分はなんで選ばれなかったのか?
 理由がわからない。広瀬にあって、自分に無いもの、がわからない。

「子どもたちが孵ってから、ゆっくり船を修理してもよかったわけじゃないですか。それに、故障したのは『自動運転』の機構であって、船を手動で動かすことは可能らしいんですから、あの場に止まっておく理由もわからない」

 東坂は朝霞の疑問をあしらった後、自分の話題に戻した。東坂が出向している会社が作業している場所に、今、ペンギン型宇宙人の船があるらしい。彼らがバリアかなんかして船の存在をステルスしている所為で、東坂たちは仕事場に近づけず仕事にならないのだそうだ。不法投棄されているのは建設残土。役場に届け出業態を謀った業者が、遣りたい放題やってドロンという悪質なヤツ。何が問題って、この島は「台風の晴海通り」と言われるルート上にある。正しく処理されてない建設残土が土砂崩れを起こしたりすると大変なことになってしまう。台風オフシーズンのうちに作業を終わらせたかったのだが、このままでは工期が大幅にずれてしまう。村長が本島に陳情に行ってやっと予算が下りたのに。東坂たちがなかなか本島に帰れない、ということにもなっている。

「うーん。抱卵中は半数が動けなくなるってことがネックらしいですからね。なんか、そこらへんに問題があるんじゃないですかね。『手動運転しながら自動運転機構の修理は出来ない』とか、『手動運転には多数の人手がいる』とか……」

「なるほど……『手動運転に多数の人手がいる』ね。それなら、納得できるな」
 東坂さんは頷いた。
「この子たちの親と、もっといっぱい話がしたいなぁ。何を考えているのか、本当に不思議だ。人間は何に巻き込まれて何に加担させられてるんだろうな」

 何を難しいことを考えてるんだ? このヒトは……。

 朝霞は、宇宙人を見るような心地で東坂の横顔を見た。朝霞の頭の中は、とにかく卵を無事にペンギン型宇宙人に返すことでいっぱいだ。あっちの思惑はどうでもいい。
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