第4話

文字数 953文字

 隣りのベッドの佐藤は、薬を飲んだ後昼寝に入った。
 あの豪快な笑いで気付かなかったが眠ってる姿を見ると、顔がとても小さくてタオルケットを掛けられた身体の薄さが重病なのを物語っている。
 健太郎にとっては明方の激痛からの手術は大きな出来事だった。
 しかし佐藤を見ていると自分の手術等ちっぽけに思えて来た。
 何故佐藤は豪快で居れるのか…。そうせざるを得ないのか…。分からない。しかし大きな人生を変える病いを抱えているのは分かる。
 これから俺はどう接したら良い?痛々しい身体を労った方が良いのか?…いや、隣人が空元気だとしても本当の元気だとしても、そのまま受け止めれば良いのでは…と巡り巡って思いは辿り着いた。
「そう言えば佐藤さんも『篠崎さんは平静を装う』って言って賭けてたな…」
ふと思い出して、自分の心を読まれている事をクスッと笑った。
 しかし喉が渇いた…。何か飲みたい…。ビールとは言わないからコーラ…いや、水で良い…。そう言えば…佐藤さんは水を飲むのも辛そうだったな…。俺が飲んだら食べたり出来る様になってから…目の前でガッツクのって如何なのだろう…。
いやいや、平静を保てば良いんだった。きっと気を遣われたく無いからこその馬鹿笑いしてた様にも感じる。
 本当に目まぐるしくて心の置き場所が分からなくなる日だ…。点滴の滴を見詰めながら何か考えてしまう。暇に困って居たが今は暇と感じない。お隣さんの事ばかり考えてしまう。
 すると佐藤が目覚めた。
「あぁ寝た!明日の夜は格好付けなくちゃいけないからもう一回寝る! 」
と佐藤は不敵な笑みを見せた。
「明日? 」
「花乃ちゃんさ。明日花乃ちゃん夜勤だからさ。俺外出する時の付き添い頼むんだ」
外出を美人看護師と…。やはりお隣さんは只では起きないのか。思わず健太郎はプッと笑った。
「楽しみだなー! 」
「外出から帰ってきたら色々聞かせてくださいよ」
「話さない訳ないでしょう、俺が」
そう言うと佐藤はまた眠った。笑わせる為に体力と神経を使ってるのは何となく感じる。何故…分からない…。強くありたいのか、病気に負けたく無いのか分からない。しかし彼は笑って居たいのだろう。
 ならば一緒に笑おう。今日顔を合わせたばかりで、こんなに考えさせる存在の強さ。どうやら佐藤さんは全力で生きてるらしい。
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