第6話

文字数 1,580文字

 夕方になった。患者の夕飯を乗せたワゴンがガタゴト音を立てて居る。健太郎も夕飯を待ち侘びて居た。ワゴンの音が部屋の前で止まり、花乃ちゃんかお膳を2つ両手に運んできた。
「はい佐藤さん。はい篠崎さん」
と細腕で重いお膳を軽々と運んでいる。近くで見てもやはり美人だ。何て整った顔なのだろう。健太郎は見とれそうな気持ちを抑え込んだ。
 佐藤が声を掛けた
「花乃ちゃん、俺の外出の時付き添ってくれない?」
「あっ、良いですよ。いつ外出ですか? 」
横で話を聞いていた健太郎は、花乃の優しい話し方にも感心した。二物与えられてるなと。
 それをよそに佐藤は続けた
「近々だけど決まってないんだ」
「明日バイタル問題なかったら行きませんか? 」
「えっ、明日でいいの?花乃ちゃん夜勤明けじゃん」
「大丈夫ですよ。だからバイタル落ち着く様にシッカリ寝てください。ふざけ過ぎないで! 」
「はい、分かりました!花乃先生!と言う事で篠崎さん今日はイビキ禁止です! 」
急に佐藤から話をふられた健太郎は
「お、俺に来る⁉︎」
「勿論!明日の外出出来なくなったら篠崎さんのせいだから」
上目遣いで佐藤は不敵な笑みを浮かべて居る。
「昨晩もイビキで寝かせて無いですからね…はい分かりました、寝ませんよ」
「宜しく!」
「宜しくって…そこは『イヤイヤ寝てください』でしょう! 」
「なぁんて、ちゃんと耳栓あるから大丈夫! 」
「ったく…ね」
花乃に呟くと笑って退室した。
 佐藤はチビチビと食を進めながら話し掛けて来た。
「俺さ、明日花乃ちゃんに告ろうと思ってるんだ」
「え⁉︎…告るの? 」
突拍子の無い話に健太郎は思わず味噌汁を吹き出しそうになり、必死で堪えて飲み込んだ。
「うん、美人で直向きで…告りたくなるじゃん」
「それはね、分かりますよ。渡さんなら性格美人ですけど、花乃ちゃんは全体的に美人だから」
「そこで何でオタフク!俺一応マジなんだけど」
不敵な笑みの向こうにワクワクとドキドキか垣間見える。
「じゃあ、俺のイビキ関係無くドキドキで寝れないかも知れないですね」
「うわ、有り得るから言わないで…」
佐藤は嬉しそうにもがいて居る。
 食後も佐藤と健太郎は花乃の話や他の看護師の話で盛り上がりあっという間に消灯となった。10分くらい経つと佐藤の寝息がスースーと聞こえてきた。明日が彼にとって良い日になる様にと願いつつ健太郎も眠りに付いた。

 早朝、佐藤は気持ち良く目覚めた様だ。花乃がバイタルを測って居る。血圧計に空気を送るシュコンシュコン鳴る音の後、佐藤の心拍数がビッピッと響く。健太郎はつい安定してます様に…と祈ってしまう。
「120の68、脈拍65、体温35.8℃、今日は宜しくお願いしますね」
花乃の言葉に佐藤はガッツポーズを見せた。
「花乃ちゃん、俺の私服出してくれる? 」
「あ、朝ご飯の後で着ちゃいますか。手伝いますね」
「ありがとう」
朝食が下膳された後、花乃が佐藤の着替えの手伝いに来た。
ガサゴソ着替えてる音が聞こえる。
「アチャー、ブカブカだー」
「うん、でも似合ってますよ。キャップも被りますか? 」
「あ、これね。俺のお気に入りなんだ。…似合う? 」
「うわ、カッコいい! 」
会話が続く中でカーテンが開き、佐藤は私服で車椅子に乗ってた。今時の同年代だ。車椅子に乗って細柄に見えるだけ。
「佐藤さん病人じゃ無いですね」
「うん、人間してるだろ」
花乃は笑いながら
「私も勤務もうそろそろ終わるので私服に着替えてきますね」
と病室を出た。
しばらくして戻って来た花乃は、スキニーパンツとピンクのブラウスがよく似合って居た。スキニーパンツのネイビーの長い脚と小振のネイビーのバッグのコントラストが合っている。
「佐藤さんお待たせ。さ、行きましょうか」 
「行こう行こう!篠崎さん行ってきます! 」
「いってらっしゃい」
上機嫌で佐藤は手を振って花乃と出掛けて行った。
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