第9話

文字数 1,102文字

 花乃は休憩時間や休みの日に佐藤に必ず会いに来た。2人の時間を仲睦まじく過ごしている。見舞いの品に花乃は手作りのプリンやゼリー、買って来たヨーグルトを持って来た。それを佐藤は嬉しそうな顔で小さなひと口ひと口で食べる。流石看護師だけあって佐藤が何が食べれそうか毎日察しが付く様だ。
 2人とも何て幸せな顔をするんだ。微笑ましい。気付けば2人の関係をスタッフも病棟の患者も温かく応援して居た。
 花乃が居ない時間はいつものお笑いコンビの俺らだ。バカ笑いをして過ごして居た。
 健太郎も入院5日目となり退院の日も見えて来て居た。
「篠崎さん、退院の時は彼女さん迎えに来るんですか? 」
「そのつもりらしいんだ。とにかく退院したら焼肉食いてー! 」
「ビール必須でしょう」
「勿論!カルビでご飯包んでひと口頬張ってビール…楽しみでしょうがないですよ」
「カルビと一緒にキムチも巻いたら最高ですね」
「佐藤さん分かってるねー!うん、最高! そう言えば話変わるけど、花乃さんに指輪は佐藤さん買ってあげたの? 」
「うんそこは男として、ねぇ。篠崎さんも彼女さんに買ってやったんでしょう? 」
「うん、石付きが好きだから頑張ってアクアマリン買ってね」
「アクアマリンかぁ、えっ、篠崎さん仕事何してたんでしたっけ? 」
「車のセールス。ひよりが軽自動車買いに来て俺が対応してね…」
ひよりの写メを見ながら健太郎は答えた。『へぇ、それで?』と佐藤が答えると思って居たが、返事が無い。健太郎が 佐藤を見ると寝ている。…ん?寝て居るのと何か違う様に見える…。
「佐藤さん?…佐藤…さん? 」
何かが変だ。
「佐藤さん⁉︎佐藤さん!佐藤さん‼︎ 」
健太郎はベッドから飛び出して佐藤の身体を揺すった。全く反応が無い。ナースコールを押そうと手にしようとするが、そう言う時に限ってナースコールが手から滑る。必死に掴み直してコールを連打した。
「どうしましたか? 」
穏やかな看護師の返答だ。
「さ、佐藤さんが!佐藤さんが!あの…あっ、あの」
健太郎は言葉にならない。
「今行きます! 」
看護師が甲高い声で答えると同時に走る足音とストレッチャーと処置器具のワゴンの音が迫って来た。しかしその足跡が聞こえても到着がなかなかしない様な健太郎には長い時間に感じた。
「早く!早く! 」
看護師達と医師が到着すると素早く腕帯が巻かれバイタルが測られた。そして掛け声と一緒に佐藤の細くて薄い身体をストレッチャーに移した。そこへ花乃も到着した。
「悠河!悠河! 」
花乃は涙でグシャグシャだ。そのまま慌ただしく佐藤は病室から運ばれて行った。
 健太郎はどの神に祈ったのか分からないが、気付けば祈って居た。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み