第3話

文字数 1,013文字

 トイレ…車椅子…骨と皮の様な痩せ方…この3つが健太郎の心を駆け巡った。佐藤さんあんなに元気に話してるじゃ無いか。何故車椅子でトイレ?『胃』って話してたよな…胃がどうなってるんだ…。しかもベッドとベッドの間のカーテンは立って開けたのでは無いのか?
 健太郎は佐藤のベッドを見た。枕元に、子供の頃に遊んだオモチャのマジックハンドがあった。あっ…懐かしい。小学生の頃あれをハンドルガチャガチャさせてジャンケンしたな…、グーとバーしか出せなかったけど。だがこれは佐藤さんにとっては生活アイテムであろう事は健太郎も察するに容易だった。マジックハンドを使ってカーテンを開けた佐藤の姿が目に浮かぶ。あっけらかんとした佐藤さんにも、まだ俺に見せて居ない辛さが有るのでは…と神妙に感じた。
 トイレから戻って来たのか、佐藤と渡の笑い声が廊下から聞こえて来る。健太郎は仰向けのまま何事も無い様な顔をして
「あ、お帰りなさい」
と声を掛けた。
「ほらな、篠崎さんは平静を装うって言ったの当たっただろう? 」
車椅子に乗った佐藤は誇らしげにして居る。渡は
「うーん負けた!神妙な顔してるに掛けてたのになぁ…」
「えっ⁉︎俺で賭けしてたんですか⁉︎ 」
2人が佐藤の車椅子姿を見た自分の様子で賭けをしてたと聞いて、健太郎は思わずポカンとしてしまった。
「篠崎さん、盲腸で良かったなぁ。俺みたいに胃やられてたら栄養不良でフラフラだよ。トイレに行くのにオタフク着いて来んだよ⁉︎すっ転んだらまずいって 」
つい笑ってしまった。やはり術後の傷が痛む。
「佐藤さん、笑わせないでって!傷口痛いから。渡さん佐藤さんに喋るの禁止にして」
と健太郎が揶揄った。
「ちょっとちょっとちょっと…篠崎さん! 」
「そうね!佐藤君の口に絆創膏貼っておくわ」
ダメだ…この病室に居たら傷口が開きそうだ。
「じゃあ佐藤君この薬置いとくから飲んでね」
「はーい」
横目で2人の他愛無いやり取りを健太郎は笑顔で見て居たが、渡の笑顔が一瞬強張った様に見えた。
 佐藤を見ると脂汗をタラタラ流して居る。『渡さんは何か佐藤さんの異変を察して薬を渡したんだ…』と、深刻な何かを目の当たりにしてる様に感じた。その感じた物が確信になった。
 佐藤の水の飲み方が側から見ても、小さく小さくひと口ひと口ゆっくり飲んでいるのが分かる。この笑い飛ばす強さは、細い身体の何処から来るのだろう…。健太郎は思わず胸を締め付けられる様な思いになった。
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