第7話

文字数 1,952文字

 佐藤と花乃は、病院から徒歩で行けるショッピングモールへと向かって居た。
「入院して1年経ったから、この服で丁度良いなあ。病院に来た時と景色同じだな」
佐藤はキョロキョロしながら言った。
「1年経ちました?もっと居るみたいです。佐藤さんインパクトあるから」
「あっ、マジで⁉︎ 」
「豪快に笑うから、2つ隣の病室迄声届きますよ」
「そうなの? 」
「はい」
会話が弾む。花乃が看護学校を卒業して間もないオドオドした時期も佐藤は見て来た。そんな中で花乃の成長と自分の病状の悪化が進んだ1年だった。
「佐藤さん、行きたい店は何処ですか? 」
「うんとねー…やっぱり帽子見たいんだよね」
「あっ、良いですね!行きましょう」
ショッピングモールに入って、帽子専門店に入った。男性用のテンガロンタイプやキャップ、ニット帽、様々な物がオシャレに飾られワクワクする思いで2人は帽子を眺めた。
「俺カンカン帽って買った事無いんだよねー」
と佐藤は黒のカンカン帽を手に取った。被って見ると何か物足りない気がして
「うーん…」
と唸った。
「佐藤さん、サングラスと合わせたら? 」
店内に陳列されている丸渕のサングラスを花乃が手渡した。佐藤が掛けて見ると
「おっ、ちょい悪で良いね! 」
佐藤の声が弾んだ。
「本当、ちょい悪ですね。病室ではチョイ笑ですけど」
と花乃は揶揄った。
「おい、本当の事言うな」
2人は大笑いしながら、カンカン帽とサングラスを買った。
 車椅子を押されながら、佐藤は噴水を見に行きたいと言った。花乃は噴水へと車椅子を押した。
噴水広場に着くと水飛沫にカラフルなライトが当てられて赤や青、緑や紫等の綺麗な水があちこちに噴き出ている。佐藤は話し始めた。
「花乃ちゃん、俺と付き合ってくれない? 」
顔はいつものバカ笑いしてる顔と同じ表情だ。
花乃は佐藤の顔をシッカリと見た。そして
「佐藤さん、私と?何で私? 」
「花乃ちゃんマジ過ぎて怖いよー」
と笑う佐藤に
「佐藤さん、笑い事では無いです。交際申し込むって真剣な話じゃ無いと失礼ですよ」
「あ…うん。どうせ無理だよね。ごめん、こんな病気で役立たずの俺だもん、気にしないで! 」
笑うとまた花乃は怒った。
「そんなすぐ撤回する位の気持ちで告白したんですか⁉︎病気だから…だから何ですか⁉︎佐藤さん、本気なんですか⁉︎私は本気で答えたいのに…」
真剣に向き合う花乃に佐藤は予想外で驚いた。真剣なのに…笑いを作る癖が付いた事もあり、どうしたら良いのか戸惑った。
「佐藤さん、恋愛をしたいのですか?私と交際をしたいのですか?それともジョークですか? 」
花乃の真っ直ぐな瞳に佐藤は本音を話し出した。
「花乃ちゃんを入院してから…ずっと好きだった…。この病状なら我儘聞いてくれるだろうなって…だから花乃ちゃんと外出したいって申し出たんだ。俺.…気持ち伝えないと後悔しそうな気持ちで言ったけど…。こんな不健康な人相手じゃ…」
花乃は佐藤の手を握った
「佐藤さん、人間は病気も怪我もします。人間なのだから。私は病気なんて気にしません。本当に私を好きなんですか?嘘じゃ無いのですか? 」
「本気だよ! 」
佐藤が真剣な顔で答えた。
「嬉しいです。私も佐藤さんの事、好きです。病気なんて関係ないじゃ無いですか」
「え…。花乃ちゃん…俺で良いの? 」
「はい、佐藤さんで嬉しいです」
綺麗な花乃の頬が少し赤くなっている。
「俺本気だよ、只仕事で困らない? 」
「病院では恋愛に規則があると言われてません。私が佐藤さんが良いんです」
佐藤は夢心地になった。恋愛…何年振りだろう…闘病しかして居なかったと振り返った。
「花乃ちゃん…愛してる」
佐藤も花乃の手を細い手で握り返した。少しの時間が止まったかの様に、手を握り合った2人は見つめ合った。
 2人は頷き、アクセサリーコーナーに向かった。綺麗な石の付いた指輪やシルバー、ゴールド、ブロンズの指輪達が並んでいる。
「花乃ちゃん、薬指何号? 」
「7号」
「どれが良いかな…」
2人で胸をときめかせながら指輪を見つめた。
「ねぇ佐藤さん、これならお揃いに出来るでしょう? 」
花乃はシンプルな飾りの無いシルバーの指輪を手のひらに乗せて佐藤に見せた。
「良いね! 」
佐藤は花乃の薬指に指輪をはめた。
「うわぁ…」
指輪をはめられた手を見て花乃は微笑んでいる。
「佐藤さんは…」
13号を花乃がはめてやるとブカブカだった。
9号を試したがあわず、7号が綺麗にはまった。病で指が細くなったらしい。でも今はそんなのはどうでもいい。
2人で指輪のある手を並べて見た。顔を見合わせて微笑み合った。何て幸せな時だろう。
そのまま会計へと車椅子を押して貰い、佐藤が会計を済ませた。
 近くのベンチに座り2人は再び指輪をはめ合った。そして帰院時間に間に合うまでの間、手を繋いだ。
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