フォントに込められた想い Rev1

文字数 1,501文字

一般小説『四人の彼』

『フォントに込められた想い Rev1』から抜粋。

前のエピソード

『先輩の強引な気遣い』からのつづき

あの集合体は、フォントサイズ1の文章でした。
とたんに先輩のテンションは上がった。
もったいぶらないで早く教えろって!
そんなつもりないですよ!拡大してみますね。
私はものすごく緊張していた。
彼がフォントを小さくしてまで伝えたい事とはなんなのだろうか?
(心臓がバクバクする…)
フォントサイズを10まで上げた。
『後輩の~さんや~さん、または新しく入社した女性陣にどうしてテストを頼まなかったのか?

もともとの動作確認テストの候補だった二人とは誰だったのだろうか?』

私の心を見透かされたようだった。

心臓が一瞬、痛んだ。

彼は訝しんでいる様子だ。


このような、反応はとても珍しいから私も驚いた。
いつも落ち着いている彼が『年相応の、私より少し若い男性』に見えたのだ。
(でも私、相当やばい人だと思われていそうだ…)
先輩にメールの一部を教えると
なんなのその反応…意味分からん。
先輩はとてもがっかりしていた。
そう、彼はとても分かりにくいのだ。
(先輩とは真逆かな…)
それ、返事するの?
今はまだ13時すぎなので時間もありますし、しますよ。
言ったら?
何をです?
『あなたの声が聞きたかったから』って。
───!
それは無理です…。
私は真っ赤になって、気弱になってしまった。
私は本当のことしか話さない性格で、ストレートな物言いをしても何とも思わない性格だが、彼に対してだけは本当に無理だと思った。
私はその後、『真面目に』先輩と動作確認テスト前テストを進めていった。
14時になった。あと一時間だ。
さて、ちゃんとできるんかいな。
緊張してきました。
急転直下、私は真っ青になった。
こういうボタンとかうまく使えないとかちゃんと言うんだよ!
分かってますよ!
ほんとかなあ。
うう…。
二人とも良い年の大人だが、やっていることは高校生と変わりがない。
先輩、私ね、
ほんとにこうやって軽口を叩ける人間なんですよ。
でも彼を前にすると何も話せなくなるんです…。
なぜか分からないけど、怖いと思う。

彼のじっと見入るような視線のせい?

でも本当は分かっている。
彼から減点されたくないのだ。
へぇ…乙女じゃん。
先輩は私の心を分かってか、励ましてくれた。
『らしくない。』
えー!?
俺戻るわ。
がんばってこいよー、じゃあなー。
唐突に通話は終了した。
クズとはいえ、私にはとてもいい先輩である。
(さて…)
私は彼に返信した。
「今日は15時より、よろしくお願いいたします。

私の後輩たちはPCに疎いためテストには協力してもらえませんでした。

二人の候補の方は別のサイトにいる方たちです。

今日は運が悪くどちらともタイミングが合いませんでした。」

そして、その後に続く文章は、フォントの色を限りなく白に近いグレーに変えて打ち込んだ。
「ヘッドセットを選定してくださったのは~さんですし、今日は~さんと偶然お遭いしましたので、『~さんがいいな』と思いお願いしました。」
そして元のフォントの状態に戻し、
「以上、よろしくお願いいたします。」
と締めた。
彼からなんと返信が来るか非常に気になってしばらくメールボックスに釘付けになっていた。
しかし彼からは返事は来なかった。
フォントのしかけを見逃されてしまったのだろうか。
それとも、いつもの『わざと』返事をしていない?
(もう少しグレーの色を濃くすれば良かったかな…失敗。)
(15時まで、あと10分だ。)
私は予約していた会議室へ急いだ。
そしてこれ以降、彼からフォントを変えたりするメールは来なかったし、彼の気持ちが書かれているメールが送られてくることもなかった。
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登場人物紹介

私:30代後半の女性

昔は綺麗だった。見た感じさほど変わりはないが、今は自分の加齢に悩んでいる。

年上が好みだったが、これから好きになるある男性は年が下かもしれないので落ち着かない。

彼:年令不詳だがおそらく私より年下

優しい、誠実な仕事ぶりの中途入社社員。

私は彼がどの程度年下なのかが分からず落ち着かない。

あるきっかけで私と長い期間社内メールでのみ個人連絡をする関係になる。

その後再会した彼は今まで私が知る彼とは違っていて…

理想の彼:理想化した彼

実体の彼に出来ないことは全てしてくれるが私はだんだん違和感と不安が膨れ上がっていく。

思い出の彼:私の思い出の中にいる彼。

数種類のエピソードを持っており、時が経つごとに輝きが増す。

誰にも共有することが出来ず、なんなら実体の彼すら忘れているエピソードもある。

文字の彼:私と一番長く過ごしてきた彼。

私は再会するまで彼の顔は思い出せず、『文字の彼』として受け入れていた。

私のトラブルをいつも気にかけ助けてくれる安心感のある性格。

彼のただ一つの謎はこんなに優しいのに『感情』が入った文章には一切反応をしないこと。

自称イケメン(ただし本当にイケメンです。)の先輩。

自分に自信があり、仕事も顔も自分が一番だと思っている。

ただ、既婚者なのに女の子をひっかけているところはクズである。

私にはないものばかりで、『ある意味』あこがれの先輩。

『彼』への想いの相談相手になってもらったが…

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