文字の彼 Rev1 ─休日出勤と彼の優しさ─
文字数 1,607文字
休日出勤と彼の優しさ より抜粋
彼は異動してから2年間、文字だけで私を支えてきた存在だ。
私と彼のメールボックスを見てもただの業務メールにしか見えないだろう。
しかし、彼が私にしていることはとても尊く感謝するべき事だと思っている。
彼はプロフェッショナルな観点から私の問題を迅速に解決する、いわば私専用のヘルプデスクだ。
え?
本職の人にExcel VBA教えてもらってるの?
うらやましいなあ~。ちょっと見せて。
…これ、お金を払わなきゃいけないレベルだよ。
そのひと、俺にも紹介してよ!
分かりやすく言うと社内用宅配便だ。
最大限に努力してうまくいかなかったとしても、最後には彼に聞けば大丈夫、そう、大丈夫なんとかなる。
私はいつも孤独でかさついていた心が清涼感と温かさに満たされるのを感じる。
彼からしか得られない栄養分があって、私はそれを何度も求めた。
それは包み込まれるような安心感と信頼だ。
できるだけ迷惑にならないで、かつ忘れられない間隔で彼に質問メールを繰り返し送った。
彼とのやり取りは、メールの返信速度が速いこともあり、まるでリアルタイムで彼自身が隣にいるかのような感覚を与えてくれた。
文字を通じて感じる彼の存在は、孤独な私の唯一の支えであり、それは現実の彼と何も変わりがないと思っていた。
ある日曜日、私はひとり休日出勤がありくたくたになりながら仕事をこなしていた。
理性が疲れているのか、感情だけで意外とさらさら文が書けた。
下書きを保存する。
またメールを開く。
不用意にこのようなことをしたのは生まれて初めてだ。
自分の意志とはいえ、なんでこんなことをしたのだろうと思った。
月曜日、どきどきしながらメールを起動した。
彼専用のメールフォルダに「1」と数字が付いていた。
私はじわじわと機嫌が良くなるのを隠せなかった。
マスクの下の素顔はその場にそぐわないくらい笑顔だったに違いない。
周囲に人がいなくなるまで待つのが耐えられなかった。彼はいったいあのメールになんと返事を書いたのだろうか?
ついにメールを開いた。
動機が『困惑したからとりあえず定型文をマナーとして書いた』のだとしても私は嬉しくてたまらなかった。
気付けば私は涙ぐんでいた。
私の会社は9割が男性で、男の人はいっぱいいる。
文字の彼は彼のほんの一部だ。
それが彼の全てではないのは分かっている。
でも…
そのことを改めて実感した瞬間だった。