「お見かけしませんでしたね。」
文字数 1,140文字
エピソード「お見かけしませんでしたね。」から抜粋
私はお昼休みに彼とすれ違い、挨拶を交わすのが日課になった。
軽く会釈だけする日もある。
時には視線だけを交わして、言葉を発さずにすれ違うこともあった。
それ以上の盛り上がりもない。
思わず声を上げてしまった。
気を取り直して、ずっと気になっていたことを彼に尋ねてみることにした。
今なら答えてくれるかもしれないと思ったのだ。
私は席を立とうとした。
そのとき、彼専用のメール受信フォルダ「フォルダ5」の数字が1になっているのに気付いた。
私は分からないなりに彼の仕事を理解しようと努力した。
それでも、私は何よりも彼が業務内容を教えてくれたこと自体に驚き、感動していた。
もちろん、プロフェッショナルな範囲内でだが…
私は嬉しくて仕方がない。
彼が心を開いてくれたような気がしたのだ。
私はさっそく感謝のメールを書こうとした。
ところが、彼の返信には続きがあることに気付いた。
それは、私の所属する部署の人の名前だった。
私とは別のセクションなので、直接的な関連はない。
彼の返信に舞い上がっていた私だったが、少し違和感と一抹の不安を覚えた。