(一)-6

文字数 319文字

「ねえ、これって、何に見える」
 秀美の方を見ずに秀美がすぐ近くに来たことを察知した汎人が、それから目を逸らさずに秀美にそう尋ねた。
「人間の手、ですかね」
「やっぱりそう見える?」
「ええ」
 秀美がそう返事すると、汎人は突き出た腕の周囲を、近くに落ちていた折れた木の枝を使って掘り始めた。
 汎人が掘り返している間、秀美は携帯電話を取りだして電話を掛けて一一〇番通報した。
 少しずつ現れた腕は上腕の半分までは見えてきた。しかし、その先はまだ時間がかかりそうだった。
 汎人は途中で作業をいったん止めて、突き出た手を握ってみた。完全に冷たくなっていた。すでに亡くなっているようだった。
 ともかく、汎人は雨の中でその腕の周囲を掘り起こし続けた。

(続く)
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