闇になった者

文字数 1,026文字

 い、嫌だぁぁ!死にたくない。

 私はあいつらの言葉を理解していない、呪われてなどいないんだ!

 棺桶の文字だって読めてないだろ、だから逃がしてくれ。

 ……ああ駄目だぁ、あいつらが私の腕や足を掴んで離さない。

 目には見えない闇の(かすみ)が、腕や足をしっかり掴んでいる。

 死にたくない、死にたくないよう。
 動く度に皮膚が剥がれ落ちるよう。
 「府威慧供 禰宇」が私の耳元で囁いてくるよう。

 ……ち、違う!私は言葉の意味を理解していない。

 うあぁぁぁ、言葉に応えた腹の中の卵が(うごめ)いている。
 
 府威慧供 禰宇 娑流把離 御宮 慟納霊
 府威慧供 禰宇 娑流把離 御宮 慟納霊
 府威慧供 禰宇 娑流把離 御宮 慟納霊

 そうか……これは古来の陰陽道に則る蟲毒(こどく)の呪い。

 朱鬼を「あけおに」ではなく「しゅき」と呼ぶのか、あははは!何故こんな簡単な事に気が付かなかったんだ。

 ……も、もう手遅れだ、卵が(かえ)ってしまう。

 意識がだんだんと遠ざかる……もう何も見えない、聞こえない。

 孵化(ふか)した蟲たちは、あの土塊に喰われてしまうんだ。

 私の肉を糧にした蟲たちが、あの土塊と一体となって形代になるんだ。

 私は肉体が溶け落ち、朱鬼の村民となって永遠にさ迷い続けるかもしれない。

 あいつらのように闇の霞となってしまうんだ。

 ……あの仏像も『摩訶迦羅天』ではなかった。

 亜 府威慧供 禰 威慧棲 畏可
 露我 禰宇 府路 娑流斗 府威慧供
 嗣 彌畏 娑流把離 御宮 慟納霊

 偽りの神がここにいる
 此の地の神に偽りの救いを求めなさい
 救われたいなら全てを捧げるのだ

 ……どうやら朱鬼の民の言葉を理解してしまったようだ。

 この村は邪悪な陰陽師が「偽りの神」を降ろした地。

 朱鬼の村民は犠牲者だ……愚かに信じてしまったがために邪悪な呪いの実験台にされたのだ。

 もう身体の半分も残ってはいない、逃れられそうにない。

 私はもう助からないのだろうか? 

 ……誰かがこんな事を言っていたような気がする。

 呪いとは何か?それは人の脳裏に植え付けられたイメージそのものだと。

 朱鬼の民の言葉を聞き、同じ事をイメージした者たちの脳裏で「形」として生まれるのだと。

 だからそれは存在した、私の目の前で朱鬼村は存在したんだ。

 この呪いを活かせるなら、例え闇の霞になろうとも誰かの肉体の中で生まれ変わりたい。

 ……あなたもそう思うだろ?

※この作品はフィクションです。実在の人物や地名、団体などとは関係ありません。

 ――完結――
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