老人

文字数 408文字

 おにぎり専門店に行ってみよう。我が家からずいぶん遠いところにあるが、老体に鞭打って、使い古した腰をあげた。
 ラフな格好に身を包んで、見慣れていただろう街並みをゆく。改めて感じとれる風景は、前に進んでいるか、衰えているともいえるか。少なくとも、通り行く人々の肉体は衰えているといえた。このあたりに住んでから半世紀は過ぎていた。

 人の流れというものは、道路の構造とか立地の関係上生じるのだろう。すれ違うことができるのは、勤勉に汗を流すような活発な人間だけであって、そのほかはだいたい、私の前を横断する黒猫、はたまた私を追い越していく老夫婦である。まったく私も年老いたものだ。たくさんの人を追い越そう、追い抜こうとしていたころとは違って、むしろ人々の隆盛な流れに、もっとやれ、と口の中で応援してしまうくらいになっていた。
 ああだこうだと考えていると、なおさら腹のうずきが抑えられなくなる。念願のおにぎりはもうすぐだ。
 

 
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