夏野

文字数 393文字

 夏……はさわやかに見える。青年の描くキャンパスとパレットのようで、どうにも夢みたいだ。泡のように一層ふくらんでいく入道雲もそうだ。それは夕方には流されるように消えている。淡いはかなさが、そこら中を漂っているように感じさせる。
 いつか、それが全くの虚構であるということを、空想であるということを、私たちは理解する。キャンパスの中だけにあるということに気付く。気付いてしまえば、夏は、もはや泥のような時の流れの中にある。ぬかるみにはまると、ひたすら壁打ちするみたいに、ぼやけた頭で秋の到来を待つほかない。
 ただ、虚構であること、空想であることがすべて悪となすべきではないように思う。

 私たちが、夏の、いわば「夏らしい夏」を思い描くことはなんら悪いことではないだろう。瞼の裏に描いても、それは一つの創作だ。
 待って、待ってようやく茜色の風に触れることができる。その時まで、創作をしている。
 
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