矯正

文字数 370文字

 アイマスクをつけて歩くと、私たちを苛むことの一つが遮断される。ヘッドホンをつけても、口にガムテープをはりつけても同じことがいえる。そして、それらをあえて死なせるとき、他の生きているものがきわだって繊細になるようだ。
 電気を消せば、遠くの森で反響しているおどろおどろしい閉塞音が聞こえてくる。耳栓をすれば、目は口ほどにものをいうように、外野の考えていることの端々がまるで繋がれているように感じ取れてくる。声帯を潰してしまえば、人間としての無責任な責任感から解かれ、自身の観念をよく考える第一歩となる。

 それこそ、ヒトとして意識的に、意識しないまま多くのことを考えている。意識しないことを意識することはヒト的なそれとは乖離するし、そもそも不自然だろう。笑顔というものは、挨拶というものは、意思疎通というものは、とどのつまり労働に等しいのだ。
 
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