第2話 初めて白杖を使って

文字数 806文字


 初めて白杖を使って街を歩いた。といっても、使い方を知らないんだけどさ。
 去年の新型コロナウイルス騒ぎの中で、マンツーマンでの歩行訓練の指導を受けることが出来なかった。ちなみに点字もマンツーマンなので、世の中が落ち着いてから始めようと思っている。
 白杖を持つのは右手か左手かも知らない。利き手の左で黒いゴム製のグリップを握り、腹の前で白杖を左右に振ってみる。足と白杖を交互に出しながら歩くのだけどバランスが悪い。白杖を右に振ったときに、左足が出たり右足が出たりしてうまくいかない。それに、先端の石突が歩道に当たるたびに軽い反動がありスムーズに歩けない。全長130センチ、220グラムの白杖を持て余す。

 白杖を使う目的は、足元の障害物を確認するためではなくて、自転車に注意を促すためなので、石突を浮かして歩くことにした。
 しかし、それでも突っ込んでくる自転車が多いのにはまいったよ。道路の幅が狭くて、自転車レーンを確保できないから歩道を走るんだろうけど、せめてスピードは控えめにしてほしいな。
まあ、危険度が少しは減ったから、白杖も役に立ったかな。
 ぼくが選んだ道筋には食べ物屋らしき建物が見当たらなくて引き返そうかなと考えていたところに、前方から若そうな女性が歩いてきた。
 駅へ急ぐ様子がなかったので、声をかけた。もちろんソーシャルディスタンスは守ったよ。マスクなしで2メートル、マスクありで1メートルらしいけど、マスクをして3メートルぐらいのところでさ。
「食べ物屋さんを探しているのですが、この辺りに、マクドナルドか、王将か吉野家はありませんか?」
 注文のしやすい慣れた店だけど、ぼくの食生活の貧しさもあらわしているよな。
「ここを真っすぐに行ったところに王将はあります」と教えてくれた。
 ところがいくら進んでも王将がない。真っすぐというだけじゃなくて、もう少し詳しく道順を訊けばよかったなと悔やみながら歩いた。
 
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