第5話 ここにきて京都の文学友だちの

文字数 985文字


 ここにきて京都の文学友だちの勧めもあって、身体障害者手帳を申請することを真剣に考えた。
『京都ライトハウス』に行って、読書用拡大器や、本をコピー機みたいなものに広げてカバーすると読み上げてくれる機器などを実際に使ってみた。
 通院している病院の眼科へ行ったときに、ライトハウスとサピエ図書館の話をして、ぼくの眼を手術した医師に「視覚障害者ってことになるんですか?」と訊いてみた。
「申請するにはもうひとつ検査する必要があるけど、視力と視野の合わせ技でいけますよ!」
 その言葉を耳にした瞬間、かっとなった。
 手術をしたその日から、本が読めなくなったんだゾ! それを「いけますよ!」だなんて、さもぼくが望んでいることを叶えてあげますって感じで言いやがって! 口には出さなかったけどさ。
 2019年の9月、市役所の福祉課に診断書を添付して、障害者手帳の申請を出した。3、4カ月後ぐらいに判定がでるとのことだった。申請したので認可されることを望むんだけど、なんだか複雑な気持ちだった。
 でも、京都の文学ともだちに背中を押してもらって、ぼくも現実と向き合うことができたと思う。
 心のどこかに、治るんじゃないかと願っていたみたい。現実を受け入れるのに、ずいぶん時間がかかったってことだな。

 2020年の4月から新型コロナウイルスの影響で、文学学校のぼくが通っているクラスがZOOMを利用するオンライン合評になった。
 だから、外出するときに掛けていた遠距離用のメガネを使うことが少なくなって、近距離用も気休め程度の見えかただったので、家ではメガネをしなくてもいいんじゃないかってことに気づいたんだ。
 小学生の時からメガネは、大きなコンプレックスだったけど、60年近く掛けていたので、身体の一部になっていた。だから、最初はメガネをしない素顔を妻に晒すのは、不安で恥ずかしくて、なんだかパンツを穿かないでいるような感じだったよ。
でも、人はどんな環境でも慣れてしまうものだよね。
 メガネが目の前から消えて今は快適だけど、ZOOM合評や外出する時は、レンズの入っていないメガネを使っているんだ。やっぱり恥ずかしくてさ。
そうそう、この前オレンジの皮を力まかせにむいていたら、果汁が飛び出て、目の中に入ってしまったんだ。ぼくは、コンプレックスだったメガネにも守られていたんだな。と、しみじみ思ったよ。

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