第4話:お嬢様、連れ戻されてご乱心

文字数 1,028文字

 ある日、父親の従者らがやっと俺達を見つけてくれた。
 家に連れ戻され、俺は“お嬢様を強引に連れまわした”というナイス勘違いで、父親から拷問を受けた。
 カビだらけの暗い部屋の天井にくくりつけられ、こんぼうで腹周りを殴打された。殴打される度に肋骨の砕けるイイ音がした。
 ぼけっ、としていたら頭をカチ割られた。
 
 俺は”一瞬”死んだ。
 慣れ親しんだ暗闇が、俺を歓迎した。

*******
 
 生き返った頃には、俺は“死んだもの”と認定されていて、従者らに土に埋められていた。全身が土に埋もれている。呼吸ができない。別に気にしないが。
 体も痛いし、しばらく、そのままぼんやりしていた。
 
 気持ち良くまどろんでいたら顔面を這うミミズによる、酷いむず痒さで目が覚めた。
 ついでに、もう起きてどこかへ行こうと思い、狭い土の中でもがく。地上に向かって掘り進めていくと、案外簡単に空が見えた。夜だった。
 もそりと地中から顔を出すと、すぐ横で小さい悲鳴が聞こえた。声のした方向を見ると、泣いていたのか、顔をぐしゃぐしゃに汚したお嬢様がいた。
 
 えっ。何。マジで何。

 なんでこんな所にいるんすか、お嬢様、という顔をしていたら抱きつかれて、わんわん泣かれた。
 しかも、勢いで口付けをされた。何故だ。どういう展開だ。慌てて、お嬢様の肩を掴んで引き離す。
 気でも狂ったか? と、いぶかし気にお嬢様の大きな瞳を睨みつける。
 
「今気づいたんだけど、どうやら私、あんたのコトが好きみたいなの。……あんたはどう? ねぇ、もう1回、私を連れて逃げてくれない? この命令には珍しく拒否権があるわよ。拒否してもいいわよ?」

 熟れたトマトのように顔を染めたお嬢様が、上から目線な偉そうな告白をぶちかました。
 お嬢様は何を血迷ったのか、従者である俺に恋愛感情を持っていやがった。
 
 とても困るし面倒くさくなったので、お嬢様を振り切って逃げようかとも思ったが、俺を見るお嬢様の目はとても真摯に俺なんかを見つめており、その眼差しから逃げる事に罪悪感を感じた。
 
 

 仕方ない。
 乗りかかった船だ。どうせ暇だし、付き合ってやろう。
 
 俺はいつもの優しい作り笑顔で、とりあえずお嬢様を抱きしめた。こうしておけば、黙っていても女は大体落ち着いてくれる。
 お嬢様の寿命が来るのは、ゆるく見積もって50年くらいだろうか。
 それくらいの時間、すぐに経過していくだろう。
 俺は、お嬢様のわがままに付き合ってあげることにした。
 
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登場人物紹介

※自作絵 

お嬢様。生意気わがままツンデレ。

政略結婚から、逃亡する。

※自作絵

土から現れたから『ツチオ』とか名付けられた執事。

ヘラっヘラしているが……?

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