第2話:拾い物の従者と家出する

文字数 703文字

 時が経ち、私は隣町の「不細工で生意気でワキガ」だと評判の貴族の元に嫁ぐ事になった。政略結婚だ。
 私は全力で泣き、駄々をこねて父上に拒否の意を示したが「ダメ」と、ただ一言だけ返された。

 あんのクソ親父。まじふざけんな。
 いやだ。あぁ、いやだ。

 私はツチオに「連れて逃げて」とせがんだ。ツチオはとても困った顔をした。
「あんたは私に仕えているんでしょう!? 私の言・う・こ・と・を聞きなさいよ!!
 私が叫ぶと、観念したのかツチオは荷造りを始めた。
 
  
 私はツチオと共に何のあてもなく、あちこちをさまよった。
 旅の間、ツチオはことごとく優しかった。足場の悪い所を歩く時は、紳士の如く手を取ってくれた。
 ぬかるんだ道を歩く時は、私が拒否したにも関わらず服が汚れないようにおんぶしてくれた。
 野宿の時は野草やウサギで美味しい料理を作ってくれた。
 私のワガママに付き合わされて宿無し状態になってしまったのに、彼は常に穏やかな笑みを浮かべていた。

******

「……あんた、なんでしゃべれないの?」
 昔、そう訊いてみた事がある。すると、ツチオは少し困った顔をした。

「なんか、事故のせい? それとも何かトラウマ?」
 そうソレ、と言わんばかりに親指を立ててツチオは口角を上げた。筆談できたらいいのだが、彼は字は読めるが書く事ができないらしい。紙とペンを渡しても、何も書こうとしない。
「何か書きなさいよ」と、せがんだら気色の悪い自分の自画像を描きだした。

 ネコを描かせたら、固そうな剛毛に覆われた汚ならしいタワシの妖怪のようなものを、彼は穏やかな笑顔で生みだした。

 万能なツチオが唯一できない事は、字と絵が書けない事らしい。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

※自作絵 

お嬢様。生意気わがままツンデレ。

政略結婚から、逃亡する。

※自作絵

土から現れたから『ツチオ』とか名付けられた執事。

ヘラっヘラしているが……?

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み