第1話:掘り起こされました
文字数 1,531文字
ふらりと立ち寄った村で「黒髪赤瞳だ」と捕らえられ、ボコられ、挙げ句に棺に入れられ地中に埋められた。
まだこの世界の一部では、黒髪赤瞳を差別的に憎んでいる地域がある。だいぶ昔、“白い仮面をかぶった黒髪赤瞳の気持ち悪い男”があちこちで、さんざ無差別殺人を繰り返していたからだ。
と、いうかソレ、俺です。昔の、運と頭が壊滅的に悪い俺です。つまりは自業自得なので、自分には何も嘆く権利がないのだ。
権利、の前に“嘆く感情”もなかった。
俺は数十年前に死んだ“金の髪が美しい、おせっかいな”とある女性のことを未だにひきずっている。
以来、心にぽっかりと穴が開いている。未練がましいこと極まりない。表面上はさらりと笑顔で過ごしているが、心中、ただ無感情だった。
いろいろな人とキャッキャキャッキャしながら旅の同行をさせていただいたが、本当は全然キャッキャキャッキャしていなかった。
空 キャッキャだった。
※強く殴られて、若干おかしくなっているらしい。
********
棺の中は寝返りを1回うてるくらいのスペースがあった。もう少し狭くても、別によかったのに。優しいなぁ、と驚いた。
やる事なんざ当然ないので、ぼんやりと暗闇を見つめながら、昔の思い出をいろいろ反芻した……。が、時が経ちすぎていて、昔の友人の顔がぼんやりとしか思い出せなくなっていた。
そして、足を組もうとヒザを上げ、見えない天井に膝頭を強打して悶絶した。
記憶を反芻して、寝て、息吸って、吐いて、記憶反芻、寝て。寝て。寝て。
たまに、懐かしくて思わず鼻で笑った。
*******
ある日、棺が大きく揺れた。
伸びに伸びまくった自分の黒髪が揺れてうざいこと極まりない。………棺の外が何やら騒がしい。棺をガンガン叩く音がする。
……んん? 掘り出された?
そう思った瞬間、固く閉められていた棺のフタがこじ開けられ、日光が差し込み、俺の両目を焼いた。
まぶしっ! ……と感じると同時に、新鮮な、冷たい空気の美味さに驚愕した。
棺内の、吐き古した淀んだ空気ばかり吸って死んでいた体の細胞が「空気マジうめぇ」と起き出す。
「……気味が悪い。すぐに処分しよう」
ふと、中年男性の声が耳に入った。
……あっ、すみません。処分のお手間はとらせません。すぐどきます。
俺は不用意に起きてしまった。周りにはたくさん人がいるらしく、どよめきが起こった。
……しまった。おとなしく死んだフリしとけばよかった。
そう後悔していたら突然、伸びまくったべとつく汚い髪を誰かにかきあげられた。
目が、だんだん光に慣れてきた。
髪をかきあげたのは気の強そうな、育ちのよさそうなかわいい女の子だった。女の子は俺の顔をしばらくじっと見つめて、そしてニヤリと笑った。
「“これ”を屋敷に連れてって。そして洗いに洗いまくって!」
……えっ。何言ってんの、このアマ。
それを聞いた周りはおろおろしていたが、アマは全力で駄々をこねた。そして、俺を屋敷に連れ帰らせた。
俺はアマ……“お嬢様”の従者らに全身を洗われ、髪を切られ、とても肌触りのよい上等な服を着せられた。そして、あの“お嬢様”の前に引きずり出された。
何かいろいろ質問されたが、面倒くさいので無言のまま適当にあいづちをうっていたら『喋れない人』に認定された。
………はぁ、じゃあ“その設定”で生きていきます、ハイ。
しかも「私の下で働きなさい」とか命令された。
何もする事なんてないから、別にいいけど。
こうして俺は“土から出てきたから適当に「ツチオ」”と名付けられ、お嬢様の下僕になった。
名付けのあまりの安直センスに、しばらく笑わされた。
まだこの世界の一部では、黒髪赤瞳を差別的に憎んでいる地域がある。だいぶ昔、“白い仮面をかぶった黒髪赤瞳の気持ち悪い男”があちこちで、さんざ無差別殺人を繰り返していたからだ。
と、いうかソレ、俺です。昔の、運と頭が壊滅的に悪い俺です。つまりは自業自得なので、自分には何も嘆く権利がないのだ。
権利、の前に“嘆く感情”もなかった。
俺は数十年前に死んだ“金の髪が美しい、おせっかいな”とある女性のことを未だにひきずっている。
以来、心にぽっかりと穴が開いている。未練がましいこと極まりない。表面上はさらりと笑顔で過ごしているが、心中、ただ無感情だった。
いろいろな人とキャッキャキャッキャしながら旅の同行をさせていただいたが、本当は全然キャッキャキャッキャしていなかった。
※強く殴られて、若干おかしくなっているらしい。
********
棺の中は寝返りを1回うてるくらいのスペースがあった。もう少し狭くても、別によかったのに。優しいなぁ、と驚いた。
やる事なんざ当然ないので、ぼんやりと暗闇を見つめながら、昔の思い出をいろいろ反芻した……。が、時が経ちすぎていて、昔の友人の顔がぼんやりとしか思い出せなくなっていた。
そして、足を組もうとヒザを上げ、見えない天井に膝頭を強打して悶絶した。
記憶を反芻して、寝て、息吸って、吐いて、記憶反芻、寝て。寝て。寝て。
たまに、懐かしくて思わず鼻で笑った。
*******
ある日、棺が大きく揺れた。
伸びに伸びまくった自分の黒髪が揺れてうざいこと極まりない。………棺の外が何やら騒がしい。棺をガンガン叩く音がする。
……んん? 掘り出された?
そう思った瞬間、固く閉められていた棺のフタがこじ開けられ、日光が差し込み、俺の両目を焼いた。
まぶしっ! ……と感じると同時に、新鮮な、冷たい空気の美味さに驚愕した。
棺内の、吐き古した淀んだ空気ばかり吸って死んでいた体の細胞が「空気マジうめぇ」と起き出す。
「……気味が悪い。すぐに処分しよう」
ふと、中年男性の声が耳に入った。
……あっ、すみません。処分のお手間はとらせません。すぐどきます。
俺は不用意に起きてしまった。周りにはたくさん人がいるらしく、どよめきが起こった。
……しまった。おとなしく死んだフリしとけばよかった。
そう後悔していたら突然、伸びまくったべとつく汚い髪を誰かにかきあげられた。
目が、だんだん光に慣れてきた。
髪をかきあげたのは気の強そうな、育ちのよさそうなかわいい女の子だった。女の子は俺の顔をしばらくじっと見つめて、そしてニヤリと笑った。
「“これ”を屋敷に連れてって。そして洗いに洗いまくって!」
……えっ。何言ってんの、このアマ。
それを聞いた周りはおろおろしていたが、アマは全力で駄々をこねた。そして、俺を屋敷に連れ帰らせた。
俺はアマ……“お嬢様”の従者らに全身を洗われ、髪を切られ、とても肌触りのよい上等な服を着せられた。そして、あの“お嬢様”の前に引きずり出された。
何かいろいろ質問されたが、面倒くさいので無言のまま適当にあいづちをうっていたら『喋れない人』に認定された。
………はぁ、じゃあ“その設定”で生きていきます、ハイ。
しかも「私の下で働きなさい」とか命令された。
何もする事なんてないから、別にいいけど。
こうして俺は“土から出てきたから適当に「ツチオ」”と名付けられ、お嬢様の下僕になった。
名付けのあまりの安直センスに、しばらく笑わされた。