第6話

文字数 969文字

それから私たちの仲は深まっていった。上司と部下ではなく友達として。帰りはいつも一緒に帰り、休日はたまに映画を見たり、有休を使って旅行に行くこともあった。日々を重ねるごとに私はその仲が深まっていくのを感じた。そんな日々を送っていると、会社の同僚などが不思議そうな目で私を見てることに気づいた。私は少し考えて、その理由を理解した。最近会社の同僚や上司に八方美人をしたり媚びを売ったりしなくなっていたのだ。Mほどにに仲が深まる友人が全くいなかったので、私は彼に夢中で何事にもMを優先していて気付かなかった。だが私は再び媚びを売ったりはしなかった。
ある日トイレの個室にいると、あの日と同じ話し声が聞こえてきた。言わなくてもわかるだろう。同僚や上司などが私の悪口を話していたのだ。そこにMの声はしなかったし、個室に入っていても、いないことは手に取るようにわかった。なぜなら彼らは私の悪口だけではなくMの悪口も言っていたからだ。というより、Mの悪口がメインで、私の悪口はおまけ程度であった。きっとMが彼らを注意したからだろう、彼らは私に対しての馬鹿にするような感じではなく、心底憎んでいるような口調であった。私は言い返したくなった。しかし、そのとき今までの自分が私をせき止めていることに気づいた。言い返せばもっと悪口を言われるかもしれない、そう思った。そうしていると、私のほんの少ししかない勇気を業火の如く奮い立たせることを集団の1人が言った。「あいつは養護施設で育ったからあんな変な性格なんだよ」私は個室のドアを思いっきり開けた。「お前らの方がはるかにひどい性格だ!」ほかにも何か怒鳴ったがあまり覚えていない。彼らはびっくりしたのか顔が固まっていた。私は一通り怒鳴った後我に返り、恥ずかしくなって手をささっと洗ってトイレから出た。トイレから出た私の心は雲一つない快晴だった。なんだか、いろいろなものから解放された気がした。彼は自分が悪口を言われていることや、さっきの出来事を知らないだろう。そんな、彼の知らないところで私が彼を救ったという気持ちが、彼への思いを強めていった。そして、私はいつしか彼に特別な感情を抱いていた。思えば、こういう日々を積み重ねていった他に、これといって友人や恋人がいなかったからかもしれない。私は彼に恋愛感情を抱いていた。
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