第3話

文字数 1,017文字

焼肉を食べ終わり、店から出ると私たちは駅に向かって歩き出した。駅までは遠かったのですこし話しながら帰ることにした。私は自分がネガティブや臆病なことをわかっていたので、私の真逆のような性格を持っていた彼のことについて少し知りたくなった。しかしそのまま伝えるのもどこか小恥ずかしく、無難に「どこの大学に通ってたんだ?」と聞くと彼は有名な国立大学の名前を挙げた。私は彼が高校に行っていないと聞いた時と同じくらい衝撃を受けて思わず「すごいな」と言った。そこで私は彼の人生について知りたくなった。中学を中退、高校は行かずに大学は国立なんて相当な人生を送っているに違いない、と。再び私は、今度は直球に「君について教えてくれないか?今までの人生のこととか」と聞いた。すると彼は快く「わかりました!」と言って語りだした。
彼は5歳ごろから児童養護施設で暮らしていた。5歳までの記憶はあまりないらしく、親に捨てられ行く当てもなく、ボロボロの服を着て歩いていたところを施設の職員に保護されたらしい。そこの先生や他の子供たちは皆優しかった。そのおかげで彼はすくすく育っていった。彼は12歳の時点で非常に頭がよく勉強が大好きだったので施設の先生にも頭のいい学校に行きなさいとよく言われていた。年齢的には小学6年生だったが、流石に1年足らずで中学受験は厳しいだろうということで中学は地元のところに行くこととなった。初めて行く学校で緊張はしていたが、すこし楽しみだったという。しかし彼の期待は空しく、彼はそこでいじめられた。養護施設育ちだからという理由が大半だっただろうと彼は言った。最初こそ耐えていたが、次第にエスカレートしていき段々と暴力を振るわれるようになった。限界を迎え、2年になる時に中退をしてそこからは施設に引きこもるようになった。施設の友達が支えてくれていたがあまり意味を成していないように見えた。トラウマで高校も行けなくなり大学も諦めて2年が経っていたが、友達や先生の助けが少しづつ彼の視界に入るようになって彼は変わっていった。そして国立に行った友達の助けを借りて、友達と一緒の大学に行くために猛勉強を始めた。2年間の猛勉強の末、22歳でこれ以上施設に居れなくなる段階で受験をし、見事合格した。そして施設を出るときに先生からいくらかの生活費を渡され、「正直に、人のために生きなさい」と言われたという。そして大学を卒業して今に至る、ということだった。
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