第7話

文字数 1,071文字

彼にはもちろん言わなかった。単に恥ずかしかったのだ。だが伝えたい気持ちもあった。そんな時、家でテレビを見てると最近の映画のランキングが紹介されていた。最近Mと映画行ってないなぁと思いながら見ていると、一位の作品が私の目に留まった。それは男の同性愛についての映画だった。タイトルだけ見てこれだと直感した。それはもちろんタイトルに魅かれたのではなく、同性愛というところだ。そして彼を映画に誘った。話題作ということもあって彼も気になっていたらしく、すぐOKを出してくれた。
休みの日、待ち合わせ場所で彼と合流し出発した。彼は途中で困ってる人を見るたびに助けた。重い荷物を持つおばあさんや喧嘩、道に迷っている外国人など、困っているというよりは、そこで起きている問題すべてに対応していた。そして短時間で解決していた。普段彼といるとき、そこまでトラブルに出くわすことはなかったのだがその日だけはやけに多く感じた。そして映画館に着いた。私には、ある程度時間に余裕をもって出発するという自分なりのルールがあったのでそれに助けられた。映画を見終わって、ちゃんと映画の詳細を見ておけばよかったと後悔した。同性愛は同性愛なのだが、警察官と犯罪者の同性愛だった。タイトルは「愛の逃避行」。最終的に、犯罪者と警察官が駆け落ちして外国で幸せに暮らすという話だったのだが、私には、犯罪者が罪を償わず、さらに幸せに暮らすというのが何とも不愉快だった。しかし彼はおもしろかったと言っていたので、彼が喜んでくれてよかったが自分は不愉快になるという、何とも複雑な気持ちになった。
帰り道、彼と他愛もない話をしながら歩いていると、彼が「そういえば今日の映画、おもしろかったですけど、やっぱり犯罪者が幸せになるのって複雑ですよね」と言った。私は、やっぱり彼もそう思っていたのか!と嬉しくなり「そうだよな、俺もラスト気に入らなかったよ」と返した。それに続けて彼も「やっぱり犯罪者が幸せになるのは誰でも嫌ですもんね」と言った。そこから他愛もない話に戻って、いろいろ話しながら歩いているとあっという間に駅に着いた。別れ際、改札で彼が「もし僕が犯罪者だったらどうします?殺人とかの」と言った。私は冗談で「嫌いになるかなぁ」と言った。すると彼がどこか悲しげな顔をするので、私は「冗談だよ」と伝えようとしたが彼は急いで、別れの挨拶もなくホームに駆けていってしまった。彼に明日謝ろう。そして気持ちも伝えようと思い、少し明日にワクワクしながら帰った。
翌日、私たちの物語は終わりを告げた。彼が自殺したのだ。
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