第0話 

文字数 536文字

──荘厳な二条の城、(そび)え立つ五重塔、立ち並ぶ千基の鳥居、そこは白の楽園であった。

児の声が禁苑に響く。神に祝福された赤子は一体何を憂いて泣くのだろうか。
夢と希望に満ち溢れた素晴らしい人生の始まりを、宮中の神々は皆祝った。

「ようやく会えたね。うつくしき我が子よ」

絢爛(けんらん)な高御座から立ち上がり、男は白い絹に包まれた赤子を抱えた。

その傍らには濡烏の髪を伸ばした女性が控え、君に微笑みかけている。

「この子を宜しくお願いします。神武様」

「平亜よ。やっと時が来たのだ。失われた神の国を再興する時が」

「この子は『器』なのですね……私は愛しい我が子との別れさえ、惜しむことはありません。全ては神武様のたけき御心のために」

「そうか……では余は阿蘇に向かう」

君は一人、天の橋に出づる。春の波は穏やかで、陽気な風が岸を走っている。玉音が風に乗る。

『子の芽時 花水きりて 父子離る』

君はほろほろと涙をこぼしながら、赤子を花船に乗せ、そのあどけない顔に微笑みかけた。

「そなたの名は……天神ノア。世界を救う勇者だ」

男児を乗せた方舟は君の手を離れ海を逝く。子の悲痛な泣き声が大海に虚しく響く。

「いつの日か必ず帰ってくるのだぞ」

転生というのはそんなに簡単なものではない。そこには意味があり、壮絶な物語がある。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み