第4話 神話

文字数 1,547文字

1限は『神学』の授業である。神といっても宗教的なものではない。神学とは『神子(かんのこ)』について学ぶ、歴史と生物の授業を合わせたようなものである。

「1945年の隕石衝突をきっかけに現れた人類の天敵『神子』、今日はその特性について授業していくだよ」

いつもの話が始まった。この教師は何回同じことを説明すれば気が済むのだろう。

「知っての通り、神子の危険度は1から5に分類されており、数字が大きい程その危険度は上がるのじゃぞ」

禿げた老年の教師はカツカツと音をたてながら、黒板に文字を書き連ねていく。


レベル1・想定個体数12500 
熊と同程度の戦闘能力を有する。四足歩行のもの、二足歩行のもの、脊椎を持たないもの、石や植物に近い性質を持つもの……その性質は多種多様である。


レベル2・想定個体数1000 
通常兵器が通用せず、複数の街に被害が及ぶ可能性がある。ダイヤモンドより硬いアダマンタイト質の肉体を持つ。レベル2以上が市街地に出現した場合は緊急避難警報が発令され、ただちに避難しなければならない。


レベル3・想定個体数100
大災害級の被害をもたらす。強力な特殊能力を持っているため、一般的な軍隊では対処できない。レベル3以上の神子には個体名が存在する。


レベル4・個体数4
複数の国家を崩壊させる可能性がある。24時間以内に討伐できなかった場合、国際法で禁止されている核兵器の使用が許可される。幸い現在は4体とも活動を停止している。

この4体は『四凶』と呼ばれており、詳細は以下の通りである。

『山より出でし像神・チャウグナー=フォーン』
山を動かす怪力と強風を引き起こす鼻を持つ、像型で二足歩行の神子。かつて華皇国に出現した際は五つの都市に壊滅的な被害をもたらした。

『世界を食らう者・ツァトゥグァ』
巨大な黒いカエル、全身におびただしい数の口があり、その食欲は無限である。大地や海の養分を奪い、全てを不毛の地にする。大西洋に出現した際に撃破されたが、ツァトゥグァの通った土地では半世紀以上、動植物が育たなかったという。撃破された際に、その肉片は世界各地に飛散し現在も捜索が続けられている。
 
『母なる海・ハイドラ』
海そのものと同化した神子であり、この世に液体が存在する限りは完全に消滅することはない。

『紫衣の王・ハスター』
人間以上の知能を持ち、魔王と呼称される人型の神子。未だにその能力の詳細は不明である。


レベル5・個体数1 現在は『エリア0』に封印されているが活動を再開すれば世界が滅亡すると言われている。



「そして神子に対抗するために人類が産みだした武装、それが『裁器(さばき)』である」

『裁器』それは人類が生き残るために生み出した兵器である。武装型と侵食型の二種に分類され、装備すると『スキル』を得ることが可能である。
ただし装備できる数は一人一つと決まっており、二つ同時に使用すると精神に異常をきたす。


「いくら神子が危険といっても、彼らのほとんどは『禁足地』に封じ込められていますからねぇ。管理委員会の方々のおかげで、我々は今日も平和に生活できるわけですな。昨年の禁足地以外での神子の出現回数はたったの10回程度、死傷者は2~3人だったようじゃなあ」

今日も授業はつまらない。なぜ一度でいいことを何度も繰り返し説明するのだろう。
晴れ渡った青空を見ながら、まだ授業が始まってから15分も経っていないことに俺は絶望していた。

「んっ? あれは……?」

窓の外、澄み渡る空の下、巨大な二足歩行の像が歩いている。校門を破壊し校内に侵入しようとしているようだ。おい待てよ、そんなことあり得るのか? 
あの威圧感、あの巨体、歪で穢らわしい皮膚の模様、人と像を合成したような不気味な顔……

間違いない。あれは神子だ。

いつだって非日常は向こうからやって来る。


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