第11話

文字数 1,120文字

久しぶりの東京は相変わらず、忙しなく動いていた。
東京駅に着くと、溢れかえる人に私は平衡感覚を失いそうになっていた。

肌寒い、秋の空。

山手線に乗って、田町まで向かう。

ゆうこの実家があるところだ。

会社員時代、何度かご両親にあったことはあったが
まさかこんな形で再会するなんて思っても見なかった。

連絡が来たときは、既に葬儀は身内だけでと済ませたと、母から聞いていた。

どうして?

ここにくるまで、ずっと頭の中で問いかけていた。

どうして?

あの時、私に会いに来てくれてた時、何も言ってくれなかったの?


田町から歩いて15分ほどにあるゆうこの実家は
古い2階建ての一軒家だ。

お父さんと、お母さんと弟の4人家族で
仲が良すぎるのが、うちの悪いところとよく言ってた。

インターホンを鳴らすと、ゆうこのお母さんがドアを開けた。

随分痩せてしまったなと思った。
無理もない。一人娘を突然無くしてしまったのだから。



「玲ちゃん、ありがとう。ゆうこも喜ぶわ。」

そう言って、家の中に通してくたお母さんは、最後に会った時よりも
ひとまわり小さく見えた。

仏壇に飾られたゆうこの写真。

もう、馬鹿ね玲はという時のあの笑顔。

私は、涙を堪えながら手をあわす。

どうして?

そう問いかけても、もう答えは帰ってこないのだ。

「会いにいったんですってね。あの子。」

お茶を差し出しながら、ゆうこのお母さんはそう言った。

私は、小さく頷く。

「玲ちゃんが会社やめた時、泣いてたのよ。寂しくて。
でも、玲の為に応援してあげないとって。でも仕切りに会いたがってたわ。
どうしてるんだろうってよく言ってたもの。
最後に、会えたのね。」

私はもうどうしようもなくて、もう本当にどうしようも無くなって
ごめんなさいと一言だけ言った。

「会いにきてくれたのに、何もわからなかった。
何もできなかった。」

床に蹲りながら、涙が溢れて止まらなかった。



どうして?


どれだけ聞いても、もう答えは返ってこないんだね。

ゆうこは、自殺で大量の睡眠薬を飲んだそうだ。
同僚が、連絡がつかないゆうこの自宅に訪れた時にはもう
息を引き取っていて、遺書はなかったと言っていた。


「玲は、間違ったらだめよ。選択。私みたいに。」


その言葉の意味を、あの時聞いていたなら。


帰り際、ゆうこが大事にしていたからと
私とゆうこの新入社員研修の時の写真を渡してくれた。

あの時、人見知りの私に

「名前なんて言うの?」

と声をかけてくれたゆうこ。
お昼を誘ってくれて、仕事をミスした時は、「大丈夫なんとかなるから」
と言っていたゆうこ

今思えば、あの時からゆうこは私を助けてくれていた。

私は助けてもらうばかりで何もできなかった。

もう謝る術はないけれど。

外はすっかり暗くなっていて、秋の風が少しだけ冬の匂いがした。
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登場人物紹介

稲葉 玲  

39歳 

東京から離れた田舎で、一軒家を借りてエッセイを書いている

猫のチャイと2人暮らし



米田 コウ

29歳

写真家

今井ゆうこ

39歳

玲の元同僚

米田勇

54歳

玲の死んだ恋人

島田 美久

56歳

コウの叔母

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