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文字数 704文字
「きゃああ。まこってばっ、美形よぉぉっ」
案の定、クラスの女子の反応は、ヘリウム風船ほどに軽い。
出席番号三十八番、高田まこ。本名、真(まこと)は溜め息の出るほどすばしこく細い脚をした、生物学上はたしかに女だったと思うのだが。
「う~ん、美少年。華奢っぽくて、こうして見ると、その身長でも小柄だもんねぇ」
「よせよぉっ」
"男" に言うべきじゃない禁句を連発されて、ウドの貴明のとなりでまこはムスくれる。
身長百六十五センチ体重四十七キロ。ソバカスの浮くほど白い肌は猫茶色のフワフワ頭とあいまって、教室のなか、ひときわ明るく映える。
机に腰かけ、足を組む。
わけもなく飛びおりて、踏んだ踏まないの鬼ごっこの果てに廊下まで出張してはまたバタバタと戻る。
眼が、やっと自分をとり戻せた興奮で、誰をも魅きつける強い光輝を宿していた。
孤立していたはずの周囲に、人垣ができている。
(………やれやれ。)
いつの間にか自分が追いやられて傍観者しているのに気づいて貴明は苦笑する。
きのうまで、目立たない、はずれ者の、むしろ外された存在だったのだ。
実際おんなの制服のときには、はっきり言って虚弱体質そうな不良少女、という風にしか周囲には見えてなかったのに違いはない。
そのくらい、まこはぐたっと死んでいた。
「五月病なんて上等だぜ」
貴明のセリフに、てめーもスカートはいてみろってぇんだ、と、不気味な迫力をこめて呟いた。
さすがにもう限界だろうとは思いはしたのだが。
「…にあうん、だけどな。」
日変わりのピンクのリボンをもてあそびながら言う手をふりはらい、ひとりサボって早退したあげくの休みあけが、これだ。