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文字数 1,351文字



放課後、まこを裏庭へ誘った。

なしくずしに計測がのびて昼休みが潰れた体育のあと、五、六時間目の洗濯授業で移動したまま、普段ならばらばらに帰る日だ。

わざわざ先まわりで呼びとめられてきょとんとしてついてきたまこは、貴明の手に用具室の鍵があるのに気づいた途端に、あ、と、ひどくはしゃいだ顔になった。

「やりっ! らっきぃっ!!

「動き足りなかったんだろ?」

今日は各部一斉の定休日だ。クラブで使わない時には、一般生徒も学校備品を借りてかまわないことになっている。

迷わず、剣道場へ行く。

「さっすが解ってらっしゃる。へへっ、たかぁ、愛してるっ」

一瞬。

「 … おまえな。」

「ごめん」

「 ああ、いいよ」

かるい、ため息。

勢いあまって抱きついてきたまこの腕をはずさせて、べつに、と貴明は歩きだす。

本気で聞きたいセリフを社交辞令でアカルク叫ばれたって、嬉しいわけがあるはずもない。

貴明がまこを相手に "告白" というものをやらかしてから、そろそろ半年がたとうとしていた。

それは中学三年の二学期もおしつまったある日、町の剣道場でも受験生のための活動停止期間がはじまる。

まこは、それを限りに道場そのものを辞めさせられる約束だった。

それもこれも、みんな祖母様のせいだ。

貴明は知らなかった。卒業しても、高校へ進んでも、ここへ来ればまこには会えるとばかり思っていたので…

「まこっ! いまの話、マジか!?

追いかけて捕えた引き戻した腕にはいつもの元気はなかった。

「そーだよ。ここやめて、ガッコも変わって、ハナヨメ修行やるんだと、おれが」

「なんで黙ってた」

「言えるかよ。…急に、決まったことだし。」

「…それで、どうするんだ」

訊くと、皓皓三年間で女として躾なおして、どこかへ嫁にやるつもりらしいぜと、言う。

春からは暮らすのも少し離れた祖母様の家でだ。

もう、会えないかなあと白い首をかしげてほほえむ心細さに、つい、

「ばかやろうっ!!

理性だのプライドだの、日頃貴明が愛用している一群がそろってショートした。

「おれはおまえが好きなんだぞ。それを、もう会えない、で済ませる気かよ!」

「 …… たか …… 」

怒鳴るように投げつけられた言葉の重さを、まこはしばらく、受けとめかねて呆然と佇んでいた。

「 ……… おまえ、変態(ホモ)だったのか」

ぶっちん。

あんまりな反応に貴明の頭のどこかが音をたてて引きちぎれ、その日は、その話は、それきりになってしまったのだったが。


帰ってから彼は猛烈に後悔する。

へたをすればこのまま会う機会もなくなる大切な人間に、変態と断じられたまま、というのは、いくらなんでもな立場じゃないか。

煮つまれば行動は素早いA型牡羊座。

推選の決まりかけていた男子校を蹴りたおして、やおら受験勉強にとりかかり。

まこのひだスカート姿を毎日おがめる権利を手中にしたと、いうわけだ。



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(参照したければ資料) ↓
http://85358.diarynote.jp/201705122023467433/
[(草稿 8)]
2017年5月12日 [リステラス星圏史略 (創作)]
(http://85358.diarynote.jp/?theme_id=18)
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