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文字数 893文字
ことのおこりは十数年前、二月のある朝にさかのぼる。
母親が、出て行ってしまったのだ。黄水仙の咲く小さな家を。
その間、夫婦の事情がどんなものだったかは知らない。
ひとつ確かなのは、長くニューヨークでばりばりのインテリアデザイナーとして活躍していた彼女が、ちかごろ帰国して、どうやら正式に再婚したらしい。
ひとつ確かなのは、帰ってきてはじめてその事を知った親父さんが、
とてつもなく派手な夫婦喧嘩をやらかした挙句、さっさとニューヨークに逃げられて、
「あなたなんかより仕事の方がずっと面白い」
宣言してのけた妻を相手に、
「女なんか2度と信じるもんか~~~っっ」
と、熱血ヒラ警官の親父さんは太陽に吠えてしまったのだ。
その夜のうちに母親ゆずりの娘の長いおさげを切り、ズボンをはかせて、自分のことを "おれ" というように仕付けなおしていた、という事だ。
近所の剣道場にほうりこまれて貴明(たか)たちと走りまわることになった往年の小町娘の卵は、一途といえば純情なほどの思いこみの激しさでが功を奏してか、あっという間にガキ大将で名前をはせることになる。
小学校の六年間、黒いランドセルをしょったまこはいつでも泥だらけの傷だらけ。
それでも、中学に入れば自然に…という周囲の期待もむなしく、一計を案じた親父どのは自由服の私立校に進ませてしまった
あいかわらず、まこは男だ。
よく食べてよく伸びたので、事情を知らない人間はそもそも女だろうとも思わない。
ふくらまない体質が災いした。
まこときたら道場主である貴明の父を説き伏せて、少年剣道男子の部、で、県大会まで行ったりしているのだ。
そこで、祖母様が、ついに決意を固めた。
父方のではない。
出ていったかーちゃんの方の、である。
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(参照したければ資料) ↓
http://85358.diarynote.jp/201705072149364943/
[(草稿の4)。]
2017年5月7日 [リステラス星圏史略 (創作)]
(http://85358.diarynote.jp/?theme_id=18)