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文字数 851文字
次の時間4時間目は体育である。
「おまえなああっっ」
さすがに貴明の悲鳴と女子の級長の良識に気圧されて、着替えだけは生物学上の区分に従う気になったようだが、授業がはじまって整列してみるとちゃっかり男子の陸上にまぎれこんでいる。今日は記録をとる日だ。
「本気でベルバラしとるのか、おまえは」
噂はとどいていたらしい。クラブの顧問でもある体育教師に出席簿でこづかれて列から追い出され、
「なんだよっ! どーせジャージは男も女もないじゃんか。オレぁそんじょそこらのヤローには負けないぜっ。…ちゃんと記録をとれよーーっっ…」
絶叫とともに女子のバレーコートに引き渡される。
「それが教師への言葉使いか? バカモノ、おまえに入られた日にゃ、ほかの連中のプライドが壊滅するわいっ」
男女の区別のない、ここがアメリカ式のクラス編成ならよかったのにと貴明はふと思う。
まこの通った私立中学はそういうクラス編成方針だったらしいようだ。
してみると、まこの親父殿は…
「あずま」
「はいっ!
計測ははじまっている。
一番、東貴明(あずま・たかあき)は、あわてて位置についた。
じっさい気の毒なほどなのだ。
ただでさえバレーコートは広くはない。そこへ六人も九人もつめこんで、
「はあい♪」
「そーぉれっ☆」
なんて長閑(のどか)にやっている連中を相手に、まこにどうしろというのだ。
熱くなりやすい性格だ。
本気でスパイクなんぞした日には結果は、女の子達の悲鳴と非難。
案の定ふたりばかり顔面直撃で医務室送りにして、まこはしおしおと、申し訳なさそーに審判台にのぼった。
貴明はダントツで陸上部員にハる記録を作る。
その、彼と、ころげまわって育って一歩もひかない体力と運動神経を、まこは持っているのだ。
(ホント、女じゃないよなぁ)
気をつかい、気をつかいして、相手の力量のレベルまで一生懸命おさえている。その困惑しきった苦笑の顔は、貴明たちのするだろう表情と少しも変わらない。
…もっとも正真正銘の男なら、別の意味でもうすこし嬉しいだろうが。