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文字数 1,193文字
自由を獲得するにもまずは軍資金(食費)だと、あのあとバイトを探しに行ったのだ。高校生とて地元はさけて、丘の反対側のふたつむこうの、市内じゃ一番の繁華街のあたりまで。
かえり、尾けられているとはまさか思わなかった。
夜も遅くなったしと、つい抜けた近道の公園で、声をかけられてふり返るなり茂みに引き倒されていた。
「…んなっ……?!」
ここのところ、喧嘩はごぶさただったから暴れる。とにかく暴れる。
相手は四人はいたのだろうか。
そのうちに遅まきながら向うの意図に…ようやく…気がついて呆然とする。
外見が外見だけに、今までそういう対象に扱われたことがはなかったのだ。
「や…めろよ… 何、すんだよっっ!!」
怖い、と、その瞬間、本気でからだがすくんだ。思った。
防犯ベルを持ち歩く、普通の…女のコたちの気持ちは、だから、普通はこんなふうだったのだ。
「…たすけ…っ」
すくんだ体をねじふせられ、ボタンが千切れ、下着ごとズボンがおろされかけて。
………………
一瞬の、沈黙。
遠くの常夜灯のてりかえしで、剥き出しのまこのからだが白く浮かびあがり…
は、いいが。
「なに… こいつ女じゃんか。」
ぐわたっ!
たかは、おもわず、茶碗をひっくりかえした。
「いっやー、あれってばホントにマジで世に名高い変態(ホモ)さんなんだぜぇ~~っ」
おれは初めて見た。と断言してほとんど嬉しそうに気色悪いキモチワルイときゃいきゃい騒いでいる声に、貴明は思わず座卓につっぷしたまま耳をふさいでしまう。頭をかかえてしまう。
例の "告白" の時のショック以来、ホモの一語をまこの口から聞くとめまいがするくらいだ。
「げーおれ、傷口からホモエイズになったらどーしよー?」
「ならんならんっ」
なられてたまるか、とも思うが。
とりあえず貴明は時間も遅いことだし送って行ってやるからと、まこを追い出すことにした。
「えーっ 帰んの? いいじゃん泊めてくれよっ」
「アホッ」
とにかくホモのエイズのと罵られてまで本気で惚れてる女を押し倒す根性は貴明にはないのだ。で、あれば、風呂あがりの上気した肌でこれ以上ふたりきりの家のなかをうろうろされてたまるものか。
「おまえ、歳(とし)、自覚しろよ」
どついてしまう。
「うるせー裏切者」
しっかり反撃してくるのを、よけて、薄着薄いスウェットのまこに触れないよう迂回して玄関にむかう。
………と。
あがりかまちに腰かけようとした時、唐突に世界がゆがんだ。
「………あれ?」
視界が暗くなる。冷や汗まで出てきているようだ。
「…たか、おまえ、顔色悪い… うわっ!」
覗きこんだまこを巻きぞえにして、もたれかかるように貴明は倒れてしまった。
「 …騒…ぐな… 気がゆるんだら… 腹がへっ… 」
暗転。
電話のむこうの祖母様に必死になって救けを請うている、まこの泣き声だけが、耳にのこった。