第2話

文字数 964文字

「まーた、あんたたちはイチャイチャして。困ったレズだねえ」

 小雪は、そう言われて、カスミに申し訳なさそうに微笑んで見せた。けれど、腕に抱き着く桃の手を放そうとはしない。

 パソコン実習室の利用時間はあと三十分だけ。校内に残っている生徒はほとんどいないようで、廊下はしんと静かで寒々としている。
中学三年の三学期。みんなとっくに帰って受験勉強をしているのに。
カスミだって早く帰りたいだろう。だが、桃はそんなことは気にもしないようで、カスミにかわいらしく、にっこりと笑ってみせた。

「レズですけどお。なにか?」

 見せつけるように小雪の胸にぎゅっと抱きつく。桃のふわふわした猫っ毛が小雪の首筋をくすぐる。小雪は困り顔をしてみせたが、口元の笑いは隠せない。抱き着かれていることが嬉しくてしょうがないのだと、一目見ただけでわかる。

カスミは迷惑そうに眉を寄せた。カスミがさらに文句を言おうと口を開く前に、小雪が謝った。

「カスミちゃん、ごめんね」

 桃は丸い頬っぺたを、ぷうっと膨らませて、小雪の長い髪を軽く引っ張って文句を言う。

「小雪、なんで謝るの。小雪も桃も、悪いことしてないでしょ」

 カスミがまた大げさにため息を吐く。それから桃を完全に無視して、小雪に同情の目を向けた。

「本当に須藤さんは、いっつも相沢さんのお守りで大変だよねえ」

「そんなことないよ。お守りなんて、してないし」

 小雪が桃に気を使って優しさからかばっているようにも聞えるけれど、そうじゃないのは、嬉しそうな笑顔でわかる。本当に桃のことを面倒くさいなんて思っていないのだ。

「自覚がないのも困ったもんだ」

 カスミの呟きは小雪にも桃にも聞えていない。小雪は優しく桃の頭を撫でて、ささやくように言い聞かせている。

「早くしないと、スライドが出来上がらないよ。発表は明日なのに。出来てないの、もう私たちだけだよ」

「だってえ。郷土の歴史なんて興味ないもん。小雪とカスミちゃんで、やっちゃってよ」

 カスミは怖い顔をして桃をしかりつける。

「相沢さんが須藤さんの邪魔ばっかりするから進まないんでしょ! 手伝わないんだったら帰ってよ」

「やーだ。小雪と一緒に帰るんだから。ね、小雪も桃と一緒に帰りたいよね? 小雪は桃がだーい好きだもんね?」

 小雪は困ったような顔をして、けれど嬉しそうに桃に頷いてみせた。

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