第11話
文字数 477文字
何をする気力もない日が続いた。小雪はいつも下を向いて過ごした。教室でも、廊下でも、校庭でも、どこにいても桃を見ないようにするために。
それなのに、放課後には決まって美術室に足を運んでしまう。窓際の椅子に座って、ぼんやりと下校していく学生たちを眺める。
ぼんやりと、などというのは嘘だ。小雪はハヤブサのような目で、獲物を狙うような目で見つめているのだ。桜井ケントを。
桃と腕を組んで歩くケントを強い視線で追う。桃は楽しそうにケントに何か話して聞かせている。桃のあの笑顔を手に入れたケントは、喜びのさなかにいることだろう。
二人の距離が、以前より近くなっている。桃がケントの腕に抱きつくようにして歩いている。
ふと、違和感を覚えた。
ケントがずっと桃の方に視線を向けない。恥ずかしいのだろうか。照れているのだろうか。
それとも、小雪がたびたびそうしたように、桃を焦らしているのだろうか。
『もう! ちゃんと桃のこと見てよ!』
そう言って頬をふくらます桃があまりに可愛らしいことを知って、桃が怒るのを期待して待っているのだろうか。
小雪が、そうしていたように。