第3話 仁の死、そして
文字数 2,729文字
仁は今どうして自分を殺そうかと考えていた。
神谷仁、当年取って72歳、今の時代ならまだまだ元気でいられるだろう。
少なくとも後10年は大丈夫だろう。いや、もっとか。
しかしもうやるべき事はやったと思っていた。日本を離れてこのアメリカに来てもう40年になる。
自分で会社も作ったし、宮使いも経験した。これだけやればもう十分だろう。
後はのんびり余生を過ごせばいい。しかしそれでは面白くない。こんな人生で終わっていいのかと思っていた。
だから第二の人生を考えてあんな突拍子もない事をやったのだと。
ここいらで人生の第一幕は下ろしてやろうと考えていた。
自分が死んでも残った者達に迷惑が掛からない様に、大した額ではないがそれなりの遺産も残せるだろう。
特にワイフがこの先生きて行くのに困らない程度には。
遺書は既に作ってあるが死に際のメモとしてワイフと子供達に書き残した。
そして仁は静かに自分の肉体を離れた。もう二度とこの肉体に戻る事はないだろう。
後は皆に任せよう。人はいずれ死ぬのだ。遅いか早いかの違いだ。なら仁の人生をここで終わらせても文句はないだろう。
こうして仁のアストラルボディは肉体を離れた。
『さて何処に行くか。しばらく帰ってない祖国日本にでも行ってみるか』
仁は空を飛んで日本に向かった。このアストラルボディは便利だ。
物理体ではないので空を飛ぶ事も海に潜る事も出来る。しかも息をする必要もない。
今はレベル1の状態にしてある。これなら何処の国のレーダーにも引っかかる事はない。
勿論レベル2でもいいのだが、ただ何処かで飛行機の乗客にでも見られたら面倒なので、レベル1にしておいた。要するに幽霊飛行だ。
この体でどの程度のスピードが出せるんだろうと仁は考えていた。
精神体だから空気抵抗はないはずだ。ならエネルギーの限界値まで出せるか。
そして飛ばしてみた。マッハ2.3・・マッハ10,20、更に上げてマッハ30、50。ははは、これはいい。
これは世界が持つ超高速ミサイルでも追いつかないスピードだ。飛行して15分程で日本上空に辿り着いた。
仁の実家は大阪だったが東京でも仕事をしていた。
先ずは実家の様子を見てみるかと大阪郊外の実家の前に立ったが、そこには既に家はなく駐車場になっていた。
『そうだろうな、俺が売ったんだ。家を建てるとは限らないか。こうなっていてもおかしくはないな』
さてこの後どうするか。今の仁には自分を証明するものは何もない。それはそうだろう幽霊なんだから。
しかも本体はもう直ぐアメリカで荼毘に付されるだろう。なら今日からは仁ではなくジンにしようと決めた。
『べつに野宿したって、蚊に刺される訳じゃないいんだけどなんか惨めだよな。やっぱりここはホテルに泊まりたいよな。でも金がない、どうするかな』
ジンは銀行強盗するか、それとも追いはぎかカツアゲかと思ったが、どれもみんな見っともないなと思っていた。
それなら取ってもいい所から取るのが一番だろうと、大阪の繁華街を歩きだした。
当然何処にでも世間の邪魔者はいる。しかしそう言う連中に限って道の真ん中を肩で風を切って歩いている。
これはいいとジンが正面からぶつかって行った。そうなると当然喧嘩になる。
「何処見て歩いとんじゃ、死にたいんかい」
「殺せるんならな」
「なんやと、われー」
そう言って喧嘩が始まった。ジンに取ってはこれは最初の実験だった。第3レベルで何処まで戦えるか。
ジンも若い時ときから武道をやっていた。死ぬまで現役だった。それも指導者クラスだ。それに今は身体能力も全盛時代以上に戻っている。
相手は3人だ。引けを取るとは思わなかったが、やはり場慣れしてない分動きがスムーズにいかなかった。
例え殴られたとしても痛くはない。痛覚がないのだ。だからガンガン攻めてもいいんだが、どうもそれでは芸がないように思えた。
『よしレベルを上げるか』
ジンはレベル4にした。これで通常の人間の3倍の身体能力になるはずだ。
こなればもう大人と子供、いや大人と幼児の闘いの様な物だった。相手にはジンの動きが把握出来ない。
相手は何をしてもかすりもせず、ただただジンにボコボコにされるばかりだった。
そうしておいて、
『お前ら本当に弱いな。それでもやくざか。お前らの組で話をつけてやるから連れて行け』
そう言ってジンはやくざ達の組に案内させた。
彼らは今度こそ目にもの見せてやるとばかりに意気込んでジンを組に連れて行った。
しかし組内でも状況は変わらなかった。ジンの一方的な力で制圧されてしまった。
15,6人いた組員達が全員床をなめさせられていた。全員がもう動けない。
最後の2,3人はヤッパを抜いて切りかかって来たが全然歯が立たなかった。
当たり前だろう。ジンは人間の3倍の速さで動ける。動きすら見えなかっただろうし、ジンにしてみれば相手の動きなどスローモーションの様な物だ。
これで勝てと言うのが土台無理な話だ。
全員を叩きのめした後でジンは迷惑料を出せと言った。これは普通やくざがやる手口だろう。
そしてジンは50万円を手にして引き上げた。収まらなかったのはこの組の組長だ。
素人に舐められたままではメンツが立たない。ここは何が何でも返しをしないと仲間内に舐められる。
この飯島組の組長は残った組員達を総動員してさっきの男の居所を探させた。
その頃ジンは50万円と言う金を手にして、堂々と大阪でも一流と言われるホテルのフロントに来ていた。
取り敢えず1週間の宿泊を頼んだ。普通ならチェックアウトの時に支払うのだが、ジンはクレジットカードなど持ってないので、念の為に預け金として20万円を先に入れておいた。これでトラブルを回避出来るだろうと。
それとジンの服装だが、これはアメリカの自分の家にいた時に来ていた服だ。
ただしそれは実際の服ではない。あくまでジンが意識操作して作った幻の服を具象化させた物に他ならない。
だから逆に言うとどんな服でも作り出せると言う事だ。
しかしと思った。これでは実際の生活とはかけ離れてしまう。
やっぱり服はいるだろうと梅田にある百貨店に行って動きやすい服を上下求めた。これで4万円を使った。随分高い服を買ったものだ。
後は食事だが、これはどうか。精神体に食事は出来るのか。
実際食べたからと言って栄養になる訳ではない。あくまで気分の問題だ。
体内に入った物は分解して抹消してしまえばいいだけだ。味の方は材料を数値分析して味として意識の中で認識すればいい。
言ってみれば俺はロボットみたいな物か。これもいいか。第二の人生だ、色々楽しんでみようと思った。
神谷仁、当年取って72歳、今の時代ならまだまだ元気でいられるだろう。
少なくとも後10年は大丈夫だろう。いや、もっとか。
しかしもうやるべき事はやったと思っていた。日本を離れてこのアメリカに来てもう40年になる。
自分で会社も作ったし、宮使いも経験した。これだけやればもう十分だろう。
後はのんびり余生を過ごせばいい。しかしそれでは面白くない。こんな人生で終わっていいのかと思っていた。
だから第二の人生を考えてあんな突拍子もない事をやったのだと。
ここいらで人生の第一幕は下ろしてやろうと考えていた。
自分が死んでも残った者達に迷惑が掛からない様に、大した額ではないがそれなりの遺産も残せるだろう。
特にワイフがこの先生きて行くのに困らない程度には。
遺書は既に作ってあるが死に際のメモとしてワイフと子供達に書き残した。
そして仁は静かに自分の肉体を離れた。もう二度とこの肉体に戻る事はないだろう。
後は皆に任せよう。人はいずれ死ぬのだ。遅いか早いかの違いだ。なら仁の人生をここで終わらせても文句はないだろう。
こうして仁のアストラルボディは肉体を離れた。
『さて何処に行くか。しばらく帰ってない祖国日本にでも行ってみるか』
仁は空を飛んで日本に向かった。このアストラルボディは便利だ。
物理体ではないので空を飛ぶ事も海に潜る事も出来る。しかも息をする必要もない。
今はレベル1の状態にしてある。これなら何処の国のレーダーにも引っかかる事はない。
勿論レベル2でもいいのだが、ただ何処かで飛行機の乗客にでも見られたら面倒なので、レベル1にしておいた。要するに幽霊飛行だ。
この体でどの程度のスピードが出せるんだろうと仁は考えていた。
精神体だから空気抵抗はないはずだ。ならエネルギーの限界値まで出せるか。
そして飛ばしてみた。マッハ2.3・・マッハ10,20、更に上げてマッハ30、50。ははは、これはいい。
これは世界が持つ超高速ミサイルでも追いつかないスピードだ。飛行して15分程で日本上空に辿り着いた。
仁の実家は大阪だったが東京でも仕事をしていた。
先ずは実家の様子を見てみるかと大阪郊外の実家の前に立ったが、そこには既に家はなく駐車場になっていた。
『そうだろうな、俺が売ったんだ。家を建てるとは限らないか。こうなっていてもおかしくはないな』
さてこの後どうするか。今の仁には自分を証明するものは何もない。それはそうだろう幽霊なんだから。
しかも本体はもう直ぐアメリカで荼毘に付されるだろう。なら今日からは仁ではなくジンにしようと決めた。
『べつに野宿したって、蚊に刺される訳じゃないいんだけどなんか惨めだよな。やっぱりここはホテルに泊まりたいよな。でも金がない、どうするかな』
ジンは銀行強盗するか、それとも追いはぎかカツアゲかと思ったが、どれもみんな見っともないなと思っていた。
それなら取ってもいい所から取るのが一番だろうと、大阪の繁華街を歩きだした。
当然何処にでも世間の邪魔者はいる。しかしそう言う連中に限って道の真ん中を肩で風を切って歩いている。
これはいいとジンが正面からぶつかって行った。そうなると当然喧嘩になる。
「何処見て歩いとんじゃ、死にたいんかい」
「殺せるんならな」
「なんやと、われー」
そう言って喧嘩が始まった。ジンに取ってはこれは最初の実験だった。第3レベルで何処まで戦えるか。
ジンも若い時ときから武道をやっていた。死ぬまで現役だった。それも指導者クラスだ。それに今は身体能力も全盛時代以上に戻っている。
相手は3人だ。引けを取るとは思わなかったが、やはり場慣れしてない分動きがスムーズにいかなかった。
例え殴られたとしても痛くはない。痛覚がないのだ。だからガンガン攻めてもいいんだが、どうもそれでは芸がないように思えた。
『よしレベルを上げるか』
ジンはレベル4にした。これで通常の人間の3倍の身体能力になるはずだ。
こなればもう大人と子供、いや大人と幼児の闘いの様な物だった。相手にはジンの動きが把握出来ない。
相手は何をしてもかすりもせず、ただただジンにボコボコにされるばかりだった。
そうしておいて、
『お前ら本当に弱いな。それでもやくざか。お前らの組で話をつけてやるから連れて行け』
そう言ってジンはやくざ達の組に案内させた。
彼らは今度こそ目にもの見せてやるとばかりに意気込んでジンを組に連れて行った。
しかし組内でも状況は変わらなかった。ジンの一方的な力で制圧されてしまった。
15,6人いた組員達が全員床をなめさせられていた。全員がもう動けない。
最後の2,3人はヤッパを抜いて切りかかって来たが全然歯が立たなかった。
当たり前だろう。ジンは人間の3倍の速さで動ける。動きすら見えなかっただろうし、ジンにしてみれば相手の動きなどスローモーションの様な物だ。
これで勝てと言うのが土台無理な話だ。
全員を叩きのめした後でジンは迷惑料を出せと言った。これは普通やくざがやる手口だろう。
そしてジンは50万円を手にして引き上げた。収まらなかったのはこの組の組長だ。
素人に舐められたままではメンツが立たない。ここは何が何でも返しをしないと仲間内に舐められる。
この飯島組の組長は残った組員達を総動員してさっきの男の居所を探させた。
その頃ジンは50万円と言う金を手にして、堂々と大阪でも一流と言われるホテルのフロントに来ていた。
取り敢えず1週間の宿泊を頼んだ。普通ならチェックアウトの時に支払うのだが、ジンはクレジットカードなど持ってないので、念の為に預け金として20万円を先に入れておいた。これでトラブルを回避出来るだろうと。
それとジンの服装だが、これはアメリカの自分の家にいた時に来ていた服だ。
ただしそれは実際の服ではない。あくまでジンが意識操作して作った幻の服を具象化させた物に他ならない。
だから逆に言うとどんな服でも作り出せると言う事だ。
しかしと思った。これでは実際の生活とはかけ離れてしまう。
やっぱり服はいるだろうと梅田にある百貨店に行って動きやすい服を上下求めた。これで4万円を使った。随分高い服を買ったものだ。
後は食事だが、これはどうか。精神体に食事は出来るのか。
実際食べたからと言って栄養になる訳ではない。あくまで気分の問題だ。
体内に入った物は分解して抹消してしまえばいいだけだ。味の方は材料を数値分析して味として意識の中で認識すればいい。
言ってみれば俺はロボットみたいな物か。これもいいか。第二の人生だ、色々楽しんでみようと思った。