第7話 現代の闇の仕置人
文字数 3,328文字
警察はここ直近の事件で益々迷走していた。犯人のイメージが全く掴めない。
前回の事件もそうだった。そして今回の事件もそうだ。
ただ一つ共通して言える事は、共に人の力では不可能に近い殺し方だと言う事だ。
誰にならこんな事が出来るのか。刀で切り殺すのならわかる。
しかし一刀のもとに胴を真っ二つにするなど、どんな達人でも不可能だと言われた。
それも一人や二人ではない。何十人もの人間を皆一刀のもとに切り殺している。恐らくは同一人物だろう。
しかしそんな事が本当に出来るのだろうかと捜査員達は思っていた。
そして今回の事件は、組事務所と闇金融の立川金融、それにデートクラブの会員も一人首を刎ねられていた。
ここにどんなつながりがあるのか。
捜査員達の調べてその内幕が少しづつ見えて来た。その闇金は樫野組のフロント企業だった。そしてデートクラブもまた樫野組の息が掛かっていた。
特にデートクラブの殺された佐々木裕也は立川金融に多大の借金があった。
こいつが立川金融の意に沿ってカモを加え込んだ可能性は大だ。
その線を洗っていた捜査員が一つの自殺事件に辿り着いた。自殺したのは大学4年生の川崎万代子と言う女性だった。
この名前は例のデートクラブの会員の中にもあった。そしてその相手が佐々木裕也だったとわかった。
その辺りの事情を聞こうと刑事達が川崎の親の家を訪ねたら、両親ともに最近死亡したと言う話だった。
死因は心臓麻痺との事だったが、少しおかしくはないか。二人揃って同時に心臓麻痺になるか。
しかし死亡診断書は間違いなく心臓麻痺となっていた。そして担当医師にも確認したが間違いないと言う。
ただこのタイミングが気になった。まるで全ての事に決着がついたのをのを見計らって死んだかの様に。
そこで捜査員達はある一つの都市伝説を思い出した。現代に復活した「闇の仕置人」がいると。
その伝説では、依頼人は自分の命を代償として仕置きをお願いするのだと言う。
そんな事が本当にある訳がないと捜査員達は思っていた。しかしもしそれが本当なら、今回の事件はそれに当て嵌まるんではないか。ふとそんな事を思ってしまった。
しかし事件はこれで終わった訳ではなった。確かに死の原因を作った者達の仕置きは終わったが、もう一人いるはずだ。
金の為に川崎万代子をこの罠に誘い込んだ女だ。確かに彼女は紹介しただけに過ぎないかも知れない。
しかしそうなるだろうと言う事を承知で紹介したなら、それは未必の故意と言えるだろう。
これもまた仕置きの対象だとジンは思っていた。
後日この女は遺書に今までの事を詫びで首つり自殺をした。
これで一件落着となったが犯人はどうしても見つからなかった。
ただ一つ気になる事があった。それは府警の石渡達が川崎万代子の大学で聞き込みをしている時に、同じような事を聞いていた人物がいると言う事だった。
名前はわからなかったが、人相風体からあのホテルにいた神谷と言う人物に似ていた。
石渡と岩田は直ぐにそのホテルに飛んで、宿泊名簿から神谷の住所を調べた。
あの時神谷の住所は大阪だと言っていた。そして宿泊名簿にも大阪の住所が書かれていた。
そこで二人の刑事はその住所に行ってみた。確かに住所はあった。しかしそこは駐車場で家などなかった。
近所の人に聞いてみると、神谷さん達は長年ここに住んでいたがご両親が他界し、一人息子のジンさんはアメリカに行ってしまったので、ここにあった家を手放したのだろうと言う話だった。
確かに神谷仁と言う男は実在の人物ではあったが、現住所は嘘と言う事になる。
では何処に行ったのか。それ以降の足取りは全く掴めなかった。
ただ刑事達も、もしジンに関しての身元調査をもう少し進めていたら、もっと重要な事に気が付いただろう。
神谷仁とは二十歳そこそこの若者ではなく、70を超えている事とアメリカで死んだ事を。
一方矢崎俊は順調に業績を伸ばしていた。今や資金は500億円を超えていた。
無理もない。それはジンが大手企業や技術系の企業及び特許庁のコンピューターにハッキングして、内部情報を盗み出して必ず値上がりするだろうと言う株に投資てしていたからだ。
そしてまた逆も真なりで、業績悪化の情報も先に手に入れていた。それらを買いまた空売りして儲けに儲けていた。
若干二十歳そこそこの若造が500億円も稼ぐなど、いくらIT全盛の時代とは言え、これだけ儲けられる人間は少ないだろう。
この俊は元々一流国立大学の経済学部を出ている。頭は良い。
本来なら父親が経営する会社の幹部候補として迎え入れられるはずだった。
しかし妾の子と言う事で、兄達の反対にあい冷や飯を食わされていた。父親からの支えもなかった。きっと正妻に気を使ったのだろう。
その境遇に嫌気をさして家を飛び出してホームレスになっていた所をジンに拾われた。
ただし拾われたのは体だけだった。魂の方はジンに取り込まれてしまった。
俊の記憶は今ジンの中にある。だから当然本物の俊として振舞う事も出来るが、ジンはこの男に少し違う生き方をさせてやろうと思っていた。
と言ってもそれはジンの生き方でもあるのだが。
表向きは矢崎俊と言う名前だが、中身は神谷ジンだ。
ジンは久しぶりに肉体の体で外に出てみた。肉体だと精神体よりも余分にエネルギーを供給しなければならない。精神体だとその分のエネルギーをカット出来るのだが。
そして肉体だと能力が少し劣る事になる。物理的限界値と言う物があるからだ。エネルギー効率を少しロスする。
しかし精神体にはそれがない。エネルギーは純粋に100%そのまま伝わる。途中でロスする事はない。
だからと言って肉体では困ると言う事はない。相手が人間なら何も恐れる事はない。ジンの体の限界を超える者などいないのだから。
そしてこの体の良い所は五感があると言う事だ。生で感じられる感覚だ。特に味覚は素晴らしい。
精神体になったジンでも味覚はある。いや作れると言った方が良いか。
組成分析してそれを数値化して味覚度を測って理解する。何とも味気ない味覚だ。
その点生の体は良い。この地球で普通の生活をすると言う範疇でなら。
そんな事を考えながら歩いていると、通りの角であまり見たくないものが目に入った。
中学生位の男の子が4人の柄の悪そうな高校生に絡まれていた。ああ言うのをカツアゲと言うのだろう。
普通なら誰でも見て見ないふりをして通る過ぎて行く。特にこの男、俊の意識でならそうしただろう。
しかし今は俊であって俊ではない。
「おい、カツアゲはいかんな。警察に通報しようか」
「なんや、おっさん、怪我せんうちにはよ行けや」
「おっさんはないだろう。まだ二十代なんだがな。ならお前らはクソガキか」
「なんやと、喧嘩売っとるんか」
「くだらんな、お前らでは喧嘩にもならんだろう」
「おい、みんなやってまえ」
4人はジンを取り囲むようにして、二人同時に左右から殴りかかって来た。
まぁそれなりに喧嘩のやり方程度はわかっている様だ。
いくら同時と言ってもそれなりに誤差はある。その誤差はジン相手では致命的だった。
先に攻撃を仕掛けた相手に蹴りを入れ、その足を返して二人目に足刀を入れた。それは二人に付いて来れる様なスピードではなかった。二人共数メートル吹っ飛んだ。
一人は内臓にダメージを受けてもう一人は肋骨が折れているだろう。二人共立ち上がる事が出来なかった。
そのあまりの速さと強烈さに残りの二人は動けなくなっていた。
「どうしたお前ら、かかって来るんじゃないのか」
「す、すんません、許してください」
「なら今その中学生から取った物を返せ」
「は、はい。直ぐに返します」
そう言ってそいつはカツアゲした金を返した。
「今度やったら二度目はないと思えよ。その屑共連れて直ぐに消えろ」
「は、はい」
その後中学生は何度もジンに礼を言って帰って行った。
『人間相手だとこんなものか。相手にもよるが全然余裕だな。しかしあいつらまたやるだろうな。「喉元過ぎれば熱さ忘れる」と言う諺があるが、所詮人間なんて欲がある限り反省なんかしないよな』
前回の事件もそうだった。そして今回の事件もそうだ。
ただ一つ共通して言える事は、共に人の力では不可能に近い殺し方だと言う事だ。
誰にならこんな事が出来るのか。刀で切り殺すのならわかる。
しかし一刀のもとに胴を真っ二つにするなど、どんな達人でも不可能だと言われた。
それも一人や二人ではない。何十人もの人間を皆一刀のもとに切り殺している。恐らくは同一人物だろう。
しかしそんな事が本当に出来るのだろうかと捜査員達は思っていた。
そして今回の事件は、組事務所と闇金融の立川金融、それにデートクラブの会員も一人首を刎ねられていた。
ここにどんなつながりがあるのか。
捜査員達の調べてその内幕が少しづつ見えて来た。その闇金は樫野組のフロント企業だった。そしてデートクラブもまた樫野組の息が掛かっていた。
特にデートクラブの殺された佐々木裕也は立川金融に多大の借金があった。
こいつが立川金融の意に沿ってカモを加え込んだ可能性は大だ。
その線を洗っていた捜査員が一つの自殺事件に辿り着いた。自殺したのは大学4年生の川崎万代子と言う女性だった。
この名前は例のデートクラブの会員の中にもあった。そしてその相手が佐々木裕也だったとわかった。
その辺りの事情を聞こうと刑事達が川崎の親の家を訪ねたら、両親ともに最近死亡したと言う話だった。
死因は心臓麻痺との事だったが、少しおかしくはないか。二人揃って同時に心臓麻痺になるか。
しかし死亡診断書は間違いなく心臓麻痺となっていた。そして担当医師にも確認したが間違いないと言う。
ただこのタイミングが気になった。まるで全ての事に決着がついたのをのを見計らって死んだかの様に。
そこで捜査員達はある一つの都市伝説を思い出した。現代に復活した「闇の仕置人」がいると。
その伝説では、依頼人は自分の命を代償として仕置きをお願いするのだと言う。
そんな事が本当にある訳がないと捜査員達は思っていた。しかしもしそれが本当なら、今回の事件はそれに当て嵌まるんではないか。ふとそんな事を思ってしまった。
しかし事件はこれで終わった訳ではなった。確かに死の原因を作った者達の仕置きは終わったが、もう一人いるはずだ。
金の為に川崎万代子をこの罠に誘い込んだ女だ。確かに彼女は紹介しただけに過ぎないかも知れない。
しかしそうなるだろうと言う事を承知で紹介したなら、それは未必の故意と言えるだろう。
これもまた仕置きの対象だとジンは思っていた。
後日この女は遺書に今までの事を詫びで首つり自殺をした。
これで一件落着となったが犯人はどうしても見つからなかった。
ただ一つ気になる事があった。それは府警の石渡達が川崎万代子の大学で聞き込みをしている時に、同じような事を聞いていた人物がいると言う事だった。
名前はわからなかったが、人相風体からあのホテルにいた神谷と言う人物に似ていた。
石渡と岩田は直ぐにそのホテルに飛んで、宿泊名簿から神谷の住所を調べた。
あの時神谷の住所は大阪だと言っていた。そして宿泊名簿にも大阪の住所が書かれていた。
そこで二人の刑事はその住所に行ってみた。確かに住所はあった。しかしそこは駐車場で家などなかった。
近所の人に聞いてみると、神谷さん達は長年ここに住んでいたがご両親が他界し、一人息子のジンさんはアメリカに行ってしまったので、ここにあった家を手放したのだろうと言う話だった。
確かに神谷仁と言う男は実在の人物ではあったが、現住所は嘘と言う事になる。
では何処に行ったのか。それ以降の足取りは全く掴めなかった。
ただ刑事達も、もしジンに関しての身元調査をもう少し進めていたら、もっと重要な事に気が付いただろう。
神谷仁とは二十歳そこそこの若者ではなく、70を超えている事とアメリカで死んだ事を。
一方矢崎俊は順調に業績を伸ばしていた。今や資金は500億円を超えていた。
無理もない。それはジンが大手企業や技術系の企業及び特許庁のコンピューターにハッキングして、内部情報を盗み出して必ず値上がりするだろうと言う株に投資てしていたからだ。
そしてまた逆も真なりで、業績悪化の情報も先に手に入れていた。それらを買いまた空売りして儲けに儲けていた。
若干二十歳そこそこの若造が500億円も稼ぐなど、いくらIT全盛の時代とは言え、これだけ儲けられる人間は少ないだろう。
この俊は元々一流国立大学の経済学部を出ている。頭は良い。
本来なら父親が経営する会社の幹部候補として迎え入れられるはずだった。
しかし妾の子と言う事で、兄達の反対にあい冷や飯を食わされていた。父親からの支えもなかった。きっと正妻に気を使ったのだろう。
その境遇に嫌気をさして家を飛び出してホームレスになっていた所をジンに拾われた。
ただし拾われたのは体だけだった。魂の方はジンに取り込まれてしまった。
俊の記憶は今ジンの中にある。だから当然本物の俊として振舞う事も出来るが、ジンはこの男に少し違う生き方をさせてやろうと思っていた。
と言ってもそれはジンの生き方でもあるのだが。
表向きは矢崎俊と言う名前だが、中身は神谷ジンだ。
ジンは久しぶりに肉体の体で外に出てみた。肉体だと精神体よりも余分にエネルギーを供給しなければならない。精神体だとその分のエネルギーをカット出来るのだが。
そして肉体だと能力が少し劣る事になる。物理的限界値と言う物があるからだ。エネルギー効率を少しロスする。
しかし精神体にはそれがない。エネルギーは純粋に100%そのまま伝わる。途中でロスする事はない。
だからと言って肉体では困ると言う事はない。相手が人間なら何も恐れる事はない。ジンの体の限界を超える者などいないのだから。
そしてこの体の良い所は五感があると言う事だ。生で感じられる感覚だ。特に味覚は素晴らしい。
精神体になったジンでも味覚はある。いや作れると言った方が良いか。
組成分析してそれを数値化して味覚度を測って理解する。何とも味気ない味覚だ。
その点生の体は良い。この地球で普通の生活をすると言う範疇でなら。
そんな事を考えながら歩いていると、通りの角であまり見たくないものが目に入った。
中学生位の男の子が4人の柄の悪そうな高校生に絡まれていた。ああ言うのをカツアゲと言うのだろう。
普通なら誰でも見て見ないふりをして通る過ぎて行く。特にこの男、俊の意識でならそうしただろう。
しかし今は俊であって俊ではない。
「おい、カツアゲはいかんな。警察に通報しようか」
「なんや、おっさん、怪我せんうちにはよ行けや」
「おっさんはないだろう。まだ二十代なんだがな。ならお前らはクソガキか」
「なんやと、喧嘩売っとるんか」
「くだらんな、お前らでは喧嘩にもならんだろう」
「おい、みんなやってまえ」
4人はジンを取り囲むようにして、二人同時に左右から殴りかかって来た。
まぁそれなりに喧嘩のやり方程度はわかっている様だ。
いくら同時と言ってもそれなりに誤差はある。その誤差はジン相手では致命的だった。
先に攻撃を仕掛けた相手に蹴りを入れ、その足を返して二人目に足刀を入れた。それは二人に付いて来れる様なスピードではなかった。二人共数メートル吹っ飛んだ。
一人は内臓にダメージを受けてもう一人は肋骨が折れているだろう。二人共立ち上がる事が出来なかった。
そのあまりの速さと強烈さに残りの二人は動けなくなっていた。
「どうしたお前ら、かかって来るんじゃないのか」
「す、すんません、許してください」
「なら今その中学生から取った物を返せ」
「は、はい。直ぐに返します」
そう言ってそいつはカツアゲした金を返した。
「今度やったら二度目はないと思えよ。その屑共連れて直ぐに消えろ」
「は、はい」
その後中学生は何度もジンに礼を言って帰って行った。
『人間相手だとこんなものか。相手にもよるが全然余裕だな。しかしあいつらまたやるだろうな。「喉元過ぎれば熱さ忘れる」と言う諺があるが、所詮人間なんて欲がある限り反省なんかしないよな』