入学式編 3. こころの攻略

文字数 1,661文字


「わたしね、焦ると、ダメなの」

 焦らなくても、ダメなほうが多いけれど。そんなネガティブな事実は、いまは脇に置いておく。足を踏ん張って立ち上がる。

「悲観的な想像ばかり先行して、手も足もおろそかになっちゃう。油を入れすぎて火が昇るし、文化祭で壁壊しちゃうし、友達の告白邪魔しちゃうし……。
 ほんと、最低。
 なのに、みんな、優しいんだ。誰も、わたしを責めてくれなかった」

「ふーん。恵まれていたんだ」
「うん。でも、わたしは嫌だった」

 声が震える。ひよりの反応が怖くて、顔を上げられない。みっともないなんて、とっくに知っている。
 それ以上に嫌なんだ。

「入学式、絶対に行きたいの。代表者挨拶をきっちりこなして、クラスメイトの自己紹介を一字一句暗記して、みんなの友達になりたい。
 助けられるばかりじゃなくて、助けられる友達になりたいの。スタートダッシュは外せないよ」
「……」
「わたし、足掻くよ。だ、だから、お願い。――手伝って」

 最後の言葉だけは、ひよりの顔を見て言えた。

 ひよりが微笑む。

 きっと星の悪戯のせいだと思う。ひよりの目は、憧れのような、諦めのような、むずがゆい光で瞬いていた。

「いいよ」

 〇〇〇〇〇〇〇〇

 攻略には情報が欠かせない。

 ひよりの助言通り、わたしはダンジョンの観察から開始した。

 床面積は中学の体育館くらい。目視で確認可能なメンダコは30体ほど。
 ひよりが近づくと蜘蛛の子散るように逃げ出すけど、わたしが一人で近づくと、ネズミを前にした猫みたいに楽しそうに追ってくる。

 走る速度はわたしよりちょっと上。ひよりが全力で走れば、割と追いつける。そうなると拡げた足を閉じるように推進力を得て、空に逃げてしまう。

 障害物はなし。床の端は断崖絶壁、空間は果てまで続いている。どこかに追い詰めて一網打尽とはいかないみたい。

「攻略のコツは、むやみに動かないこと。勝利条件と環境要因をよく吟味して」
「うん」

「頭でっかちになって、動けないのもダメ。行動に勝る経験はない。軽く死ぬ目に遭っても、基本死なないから、無思考の突撃もなしじゃない」
「そ、そうかな?」

「適度に考えて、適度に動く。時として地道こそ最短ルート。大切なのはバランス感覚」
「そ、それって、すごく難しくないかな?」
「あはは」

 混乱してくる。矛盾しているように見えて、その矛盾こそが正しいなんて。

 わたしはたくさん考えて(考えるのはちょっと得意)、作戦を提案した。

 漁網作戦!
 床に漁網を敷き、真ん中にわたしを配置する。つまり餌。地を行くメンダコが足を絡め取られている隙に、ひよりが接近・撲殺する。

「肝心のところ頼っちゃうけど」
「空中のメンダコはこころが対処するんでしょ? 別にいいよ」
「え。そ、そっか」
「盾でも被っときなよ。多少、痛くない」

 実行してみた。わたしはぼこぼこにされた。ひよりは2体倒した。

「頭に、盾が、盾がガンガン当たって、ううぅ」
「生きているじゃない。大丈夫大丈夫、ここじゃ死なないから」
「死ななければいいの……?」

 ブルーシート作戦!

 わたしが囮になり、メンダコを引きつける。ブルーシートまで気合で誘導! ばっと中からひよりが飛び出して、目にしたメンダコを残らず駆逐する。

 実行してみた。わたしはぼこぼこにされた。ひよりは1体倒した。

「警戒されているね。もうこころにも迂闊に近づかない」
「卸したての制服が……これから夢のような学園生活が始まるはずだったのにぃ……」
「もう十分、夢みたいじゃない」

 わたしは頬を膨らませる。そうじゃないよ。ひよりは全般的に雑! そう言い放つ勇気はなかった。

 感電金縛り作戦!

 各ダンジョンに一つはあるお助けアイテムを使用! 今回はこれ、感電金縛りの杖! 思い切り振ればびりびりの光弾が発射され、命中した子は動けなくなる。

 使用回数は2回。先端の呪宝でぶてば、残り回数如何に拘わらず効果あり。

「みんな、空に逃げちゃったね。光弾の速度と軌跡がわかれば、あと3体くらいいけそうなのに。2回じゃ練習もしづらい」

「それなら……」
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