第5話 癒し

文字数 1,452文字

それから週に一度、休日には仁とチャットで話すようになった。仲のいい同年代の友人とは休みも合わないし、皆既婚者なので嫁や子供など家族の話を聞かされ面白くない。同じ独身の仁と話しているほうが楽しかった。立場や境遇が変わると話が合わなくなり疎遠になるという話をよく聞くが、本当かも知れない。

今夜も夜八時から、指名予約し待ち合わせをしていた。時間になると、高校生の制服姿をした仁がパソコン画面に映った。白いシャツに緑のネクタイ、襟首と裾に黒いラインの入った白いベストを着ている。
「今日は男子高校生でっす!」
笑顔ではしゃぐように言った。
「最近、裸じゃないんだね」
「棚橋さんの場合は、エロを求めてこないってわかってますから。コスプレして楽しもうと思います。あ、それから棚橋さん、カスタマーレビュー書いてくださってありがとうございました」
そういえば、先週『リーマン』の名前でレビューを投稿してみたんだった。

「じんくんとは、週に一回のペースで楽しい時間を過ごさせてもらっています。いつも元気で明るく礼儀正しくて、一緒にいて心地いい癒される男の子です。可愛い弟みたいでオススメです! これからもリピートします」

「おい! 気恥ずかしいから読み上げるなよ」
仁は、スマホの画面を見ながらにやにやしている。確か最後に、笑顔の顔文字(*^▽^*)/も入れたんだった。星はもちろん、満点の五つ星をつけた。
「嬉しいなあ…棚橋さんがこんなふうに書いてくださるなんて…嬉しいなあ」
気のせいか、少し涙ぐんでいるようにも見える。
「これからも、不自然にならない程度にレビューを書いて投稿しておくから。もっとお客がつくよう頑張れよ」
「そうですね。嬉しいけど、やっぱり知り合いにレビュー書かせて応援してもらうって、ちょっと複雑ですもんね。もっと人気が出るよう頑張ります!」

しばらく缶酎ハイを飲みながら会話していると、
「棚橋さん、やっぱり一度直接お会いしたいなあ。スマホやパソコンの画面を通してではなくって。でもお忙しいでしょうから、お店に来ていただくってのは無理な話ですよね」
おそるおそる、といった様子で仁が尋ねてきた。
「お店って、やっぱりゲイバーが多い野毛(のげ)辺りにあるの?」
「はい。あの辺りの、わりとわかりやすい場所にあります。僕、コンビニのシフトも火曜水曜は空けておくよう変えてもらったんですよ。棚橋さんにいつ来てもらってもいいように」
自分も仁に直接会ってみたいし、店もどんなところなのか興味はあるが、万が一通う姿を岡本に見られたらと思うと尻込みする。
「棚橋さんって、いまお一人で暮らされているんですよね? お店に行くことに抵抗があるんでしたら、僕マッサージが得意なので、出張マッサージでご自宅に伺うことも出来ますが」
あ、それいいかも。でも、出張マッサージなんて女の子相手でも利用したことがない。
「出張マッサージって、いわゆる性感マッサージのことだろう? 俺、性的サービスは別にいらないんだよな」
仁のことは好きだが、やはり性行為をすることは考えられなかった。
「別に普通のマッサージで構いませんよ。僕、将来マッサージ師目指してますし。お値段は確か一時間一万円くらいで、他に出張料金がかかったと思います。詳しくはホームページで!」
仁はCM風に台詞を言うと、指をさすポーズを決めた。こうやって、だんだん水商売にハマる男女というのは、散財していくのだろう。しかし仁のためなら、それも惜しくはないと思えた。

結局翌週に、出張マッサージの二時間コースを予約した。

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