第4話 そういうふうにみんな出会っていたら 1

文字数 1,750文字

 どうして夏の始まりって、いつもワクワクしちゃうのかな。
 ただ暑い日が続くって予感がするだけなのに。毎年同じような夏を過ごしているはずなのに。今年の夏だけは違うって思えてくるの。毎年毎年。どうしてだろうね?

* * *

 あたしの彼のケンちゃんは、A高の一年生。きっかけは文化祭。
 A高の文化祭、七月だったんだけど、あたし、親友の燈子(とうこ)と一緒に見にいったのよね。来年受けるつもりだから、下見のつもりで。
 え? そーよ。あたし三年だよ。一応、受験生。
 ……わーかってるよ。どうせ一年かと思ってたんでしょ。よく言われるもん。
 ケンちゃんも、最初はなかなか信じてくれなかったのよね。
 ケンちゃんは、文化祭でバンドのボーカルやってたのよ。
 体育館の、文化祭用即席ステージでさ。たくさんの人の頭越しに見たケンちゃんは、すっごい光って見えた。

 まあ、そんな感じで一目惚れしちゃったわけなんだけど、相手が高校生じゃなかなか接点ないじゃない?
 どうしよう、ってウジウジ悩んでいたときに活躍してくれたのが燈子よ。
 従姉がA高に通っているからって、いっぱいケンちゃんのこと調べてくれたの。
 ラッキーなことに、ケンちゃんの家、わりと近くてさ。地下鉄一駅分くらい?
 だから放課後、燈子と一緒に見にいったりして。暇な受験生。てか、ストーカー?
 でも、だんだん見ているだけじゃ物足りなくなって。
 燈子に相談したら、告白したほうがいいって。でもでも受験生だし、って言ったら、相手は高校生だから勉強教えてもらえて一石二鳥だって。
 燈子って、合理的なのよね。背も高くって、髪もさらさらで、あたしとは正反対にクールで大人っぽい。
 あたしも、燈子みたいに生まれたかったなあ。

 告白するときは、すっごい緊張したよ。
 わざわざ家に帰って着がえてさ。メガネもはずして、コンタクト入れて。
 ケンちゃんの家の前で、ずっと帰りを待ってて。帰ってきたケンちゃんに、震える声で告白さ。
 慣れないコンタクト入れてたから、ずっと目が潤んでたのよね。それが功を奏したのか、即ゲット。
 夏休みは、楽しかったなあ。
 あたし、彼ができたの初めてだったから。「彼」と一緒に行く海や、動物園や、花火大会は、なにもかも新鮮。家族や友達と行くのとは、全然違って見えるの。
 二人きりは恥ずかしかったから、たいてい燈子と、ケンちゃんの友達と一緒だったけどね。
 もちろん、勉強も教えてもらったよ。
 ケンちゃんの家は新築したばかりで、広いし冷房も効いてるし、家族が音楽やってるから防音もされてるのよね。図書館で勉強するよりもはかどるのよ。
 ……初めて二人っきりになったのも、ケンちゃんの家だったなあ。

 でも、夏は終わっちゃった。
 最近は海も動物園もない。寒いしね。花火大会もやってないし。
 ほら、一応受験生じゃん? だから最近は、ケンちゃんの家に直行。
 ……まあ、勉強ばかりしてるわけじゃないけど。
 ……勉強じゃないことのほうが多いかも、だけど。
 でも、どうしてかなあ。夏の始まりのときみたいに、ワクワクした感じがないの。なにをしていても。
 ケンちゃんも、そうだったのかもしれないなあ。

 あたしね、寒くなると誰よりも早く風邪をひくという特技があるのよ。特技って言わないか、そういうの。
 で、今年も九月の終わりぐらい? 風が冷たいなって感じたとたん、くしゃみ鼻水鼻づまりよ。熱が出ないのが、まあ取柄かな。
 でも、受験生としては熱もないのに家で寝ているわけにもいかないじゃん? いつもどおり学校行って、いつもどおりケンちゃんの家に行ってたら、案の定だよね。ケンちゃん、くしゃみ鼻水鼻づまりで可哀想だった。って、あたしがうつしたんだけど。
 まあ、おかげであたしは元気になっちゃったんだけどさ。
 でも、あたしが元気になってちょっとした頃に、今度は燈子が風邪ひいちゃったのよね。燈子って結構丈夫で、中学入学以来、風邪なんてひいたことなかったのに。それが、くしゃみ鼻水鼻づまりで、ホント苦しそうにしててさ。
 よっぽど風邪菌のそばに密着していたんじゃない、って言ったら、燈子ってば泣くの。冷静な彼女らしくもなく。
咲綾(さあや)、ごめん」だって。
 風邪のせいで情緒不安定になっていた、ていうのならよかったのにね。

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み