第4話

文字数 2,121文字

 次の月曜日から箱型ロボットを会社に持って行った。私はロボットが作成した書類に目を通して、修正して仕上げる作業を続けた。職場の誰もロボットについて聞いてはこなかった。関心が無かったのだろう。一週間もすると手直し無しで、書類を完成させることができるようになった。ロボットの作業が速すぎるので、私は出来上がりを何度も何度も見直して時間を過ごした。

 ロボットは不具合なく動いた。私が実際に行う作業はほとんど無くなった。最初の週で修正すべきことは出つくした。二度と間違うことが無かった。初めは私が作業完了を入力するたびに自動で書類が出てきては周りの目が気になり仕方なかった。しかしこのことで簡単に机から離れられるようになったから自由を感じる気持ちが強くなり人の目は気にならなくなった。どうしても私の手打ちでは修正できない不具合がある場合は博士にメールで伝えると、次の日の朝には改良されていた。私が作る書類を数十種類程度束ねてセットして、持ち運びのパソコンに完成イメージが送られるようにすると、ビルの展望台で個人的な作業をするようにした。外を眺める余裕も出てきた。動画サイトで小説の書き方講座を見ながら、小説づくりを始めた。時間ができるということは有意義だった。今まで会社の机に座り回ってくる伝票や書類から次の書類を完成させる作業が私の仕事であった。それを画面のチェックだけで済ませられることは業務効率化がかなり進んだ。仕事場で小説づくりを始められると、半分自分が作家になったような気になった。お金が手に入ってからというもの、ロボットを手に入れ、会社の拘束時間が過ぎていくのが気楽になった。本当は多少の自己嫌悪があったことは事実だ。私だけが仕事でずるしているようで嫌ではあった。恐らく私だけが会社でロボットを使い作業をしていた。しかし依頼された仕事は進んでいた。就業規則通りに私は会社に来て仕事をこなしていた。私は自らを正当化することもできていた。会議の時間には会議に出席した。ロボットにはできない企画書も作成したから、仕事上には何も問題は発生していなかった。怪しまれないように部署の机に戻り作業をしているふりをすることもあった。そんなときは、小説の構想のメモを書いたり、小説を画面で読みながら様々な思いをメモにした。メモの束を作り、そのメモを見ながらアイデアを収れんさせていった。

 しかし人の目というものは、他人の異業には目を光らせ潰しにかかるものである。それが人間なのだ。私の仕事は命令された仕事を命令された場所で命令された時間行うことが求められていた。そして労働者の間では異質なものは排除する方向へ力が働く。それが会社組織なのだ。仕事がある一定の質以上で完了しているかどうかはその次の問題なのだ。会社では誰もが同じスタートラインに立つことが最も最初に求められる。

 ロボット作業が数週間過ぎた頃、係長から呼ばれて、離席が目立つとの意見が複数から挙がっているとのクレームを言われた。

「君はよく机から離れているけど、あまり好ましいことではない」

等の言葉から始まった。私は仕事をしていると説明をした。

「離席する時間があるなら少し仕事を増やそうか」

と提案が返ってきた。

「顔を合せるということは職場を和ませるし、いないということは不満を貯める人間もいる」

「特に忙しくしている人間はそこに矛先を向けるものだ」

私がいないことで監視できていないことに不満が出ているのであろうと考えた。
職場は監督下に職員がいることで一種の満足を得ているのかと思った。私はその注意を聞き入れず食堂でパソコン操作をしていると、同僚がやってきて、

「係長の機嫌が悪い」

と伝えてくれた。私はその同僚を信頼してはいなかった。係長の意見と言って自分の意見を言いに来たのだと思った。善人の顔して平和の使者的役割を装い、本当は毒針を指しに来たと思った。私おそらく大抵の職員のものであろう意見を無視していた。私が帰宅のために職場の机に戻ると、係長と自称善人なその同僚が部署の隅で何か話をしていた。係長がこちらを見ていた。私は心の中で馬鹿な人間だと思って彼らを笑った。彼らの言い分を憶測すると私の働き方が不満なようだった。私は引き出しからロボットを取り出して、異常が無いことを確かめた。ロボットの上面と横にはカメラがついていた。その映像をパソコン画面で確かめると係長と善人同僚が二人で引き出しを開け眺めている姿が写っていた。私は腹立たしく思ったが、相手にするのも疲れるので、そのまま帰宅した。電車で帰りながら、映像の音声データを確認した。

「最近この引き出しをよく見てますね」

「これは何だ」

「いつもその箱の中に書類を読み込ませているようです」

「開けられるか」

「無理ですね」

「写真を撮って調べてみよう」

善人男が写真を撮った。私は恐ろしい思いであった。私の机を勝手に開けることに周りの職員は誰も止めるものがいなかった。そして録音された告げ口や文句の数々。彼らは中を開けてみて私の秘密を探っているつもりであろうが、見られているのは自分たちの汚い心であることには気づいていないだろう。映像には別に三人が写っていた。
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