第2話

文字数 2,097文字

 3カ月後に私はお金を掘り起こして銀行口座に入金した。自動預け払い機は私が土の中から持ってきたお金を受け付けてくれた。何台かの預け払い機を使った。最終的に記帳された数字が私を夢見心地にさせた。何かをしようとは特段考えてはいなかったが、おいしいものでも食べようと漠然と想い描いていた。今まで入れなかった高級なレストランにでも行こうと考えていた。家を買うことや、車を買うことなどを考えてはいなかった。しかし何に使おうか悩むことで、大金を持っていることを楽しむ気持ちはあった。急な出費を心配する必要が無くなり心に余裕ができたことは確かだった。        
 ある日曜日の昼間から職場に最寄りの駅近くにある居酒屋で飲んで、帰路方面の電車に乗ると、いつもは通り過ぎる駅で降りた。普段はしないことをしようと思い、その街を散歩することにした。心が弾んでいた。十年程前に入ったことのある焼き鳥屋がある通りを歩いていると、仕事ができるロボット作れますと看板を掲げた店を見つけた。冷やかしはご遠慮下さいと扉に紙が貼られていた。店の中には髪の乱れた眼鏡をかけた男性がいた。店主だった。私は中を見ていいですかと言って店主にお辞儀した。店主は「高いものしかないよ」と言って気乗りしないようにしていた。彼はいつもの冷やかし程度にしか考えてはいないようだった。私はまた一礼して中に入った。スタイルのいい女性ロボットのポップには性処理できますと書いてあった。私は店主に「大人のおもちゃですか」と聞いた。店主は「そんなこともできる」と言って、「学習させると身の回りのことはほとんど援助できるようになる」とも言った。私は「例えば」と聞くと、「家の中の掃除や料理、洗濯」と言った。私はなるほどと相槌を打つと「書類作成はできますか?」と尋ねた。店主は「定型の書類ならできる」と言った。私が日ごろ行っている業務は見積書の作成や一日の作業件数のデータ化、請求書の作成などであったから、そのことを店主に説明すると、「できる」と言い切った。私は少し興奮し始めた。私の仕事のアシスタントができないだろうかと考えだしたのだった。そのロボットの値段は幾らか尋ねると店主は高級車1台分くらいの値段を言った。店主は止めを刺すような言い方で言ったので、私に諦めさせようとしている様だった。私は用意できる金額なので余計に興奮し始めた。店主に「作業ができることが確かめられたら、買います」と伝えた。店主は本当かどうか疑っていた。目の前の男にその金額が用意できるのかと信用していなかった。私は通帳の金額を見せようかと言うと、「そんなことはいらん」と言って、少しむっとした顔をしていた。来週また書類を持って現れることを伝えた。
 その後店の中を回っていると、若い女性が店の中のから出てきた。
「いらっしゃいませ」と挨拶されたので、私は会釈して返した。女性が「博士、さっきの件鈴木さんに連絡つきました」と言った。店主は返事すると、「そちらのお客さんがロボットを買いたいそうだから、案内してあげなさい」と言った。女性は分かりましたと言うと、私に近づいてきた。私はドキドキしていた。店主が「それはロボットだよ」と言った。私は驚き彼女の全身をみた。女性らしい首筋やふっくらとした胸は女性そのものだった。女性は笑ってニコニコしていた。私は思いきって胸を触ろうと手を伸ばすと寸前で彼女に手を叩かれた。私は即座に「どんなロボットがありますか?」と言った。彼女は「売れているのは話し相手ロボットです」と答えた。「あなたのように上手く答えてくれますか?」と尋ねると、彼女は「私は人間です」と言った。私が再び彼女に手を伸ばそうとすると、笑いながら後退りした。私も途中で手を引っ込めた。彼女はニコニコ笑っていた。目の前にいるのは人間のように見えるけど、私は彼女がロボットなのか人間なのか依然と判断ができなかった。「あなたはいくらですか」と尋ねると、「私は売り物ではありません」と言って笑っていた。もう一度「あなたのように上手く会話ができますか?」と言うと、「ユーザーとの会話が成立するように話してくれます」と言った。「例えば?」と私は続けた。「例えば、ユーザーが映画好きなら映画の話をしてくれます」「映画と言っても範囲が広いのでは?」と言うと、「キーワードを自らネットでも検索して、また自らも会話を学習するから、徐々に違和感は無くなります」と言った。「ロボットもネットに繋がっているのですか」と尋ねると、「もちろん」と言った。「私でない誰かが遠隔操作もすることも可能ですか?」と私は尋ねた。彼女は「設定次第では可能です」と答えた。「誰かが乗っ取って、急に私を攻撃することも可能ですか?」と尋ねると、彼女は「設定次第ですね。しかしそうならないように博士がサポートしてくれますよ」と言った。彼女はニコニコ笑っていた。博士が「攻撃されるなら、その前に電源を切ればいい」と言った。「今までそのような事例は?」と私が尋ねると、博士が「ない」と強く言い切った。私は来週また来ることを伝えて店を出た。
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