第1話

文字数 1,310文字

 私は突然大金を手に入れた。散歩のために朝早く外に出ると、マンション前の歩道に大きな箱があった。その中にお金がぎっしりと入っていた。私は大金を見ると興奮したのを覚えている。とっさにその姿を誰かに見られたら困ると考え、すぐにエレベーターに乗って、箱を部屋に運び入れた。もしかすると誰かに見られていたかもしれないが、周りを一度も確認しなかった。少しでも速く部屋の中に箱を運び入れることだけを考えていた。部屋の中に箱を入れてしまうと、様々なことを考えた。誰かに見られていたかもしれないと恐怖を感じた。
「すみません。私のお金です。返してください」と誰かが現れるかもしれない恐怖に怯えた。もちろん警察に届けようかとも考えた。しかし落とし主が現れるて、1割程度しか手に入にはいらないことになり、既に膨らんだ欲望が萎んでしまいそうで悲しくなった。警察に届け出て落とし主が現れなかったことを考えると、合法的に私のお金になるのだから嬉しくもなった。こんな大金を落とすならきっと合法的なものではないのではないか、だから誰も名乗り出ないのではないかとさらに考えた。しかし誰かが現れることの可能性も同時に頭をもたげ、私を落胆の中に突き落とした。しかし最終的には目の前の大金が、自分の物になる嬉しさを考えてしまうのだった。私は興奮して箱に添い寝するようして眠った。もう一度目を覚ましてから考えようとした。
 数十分後、目を覚ますと箱を開け中身を確かめた。札束が何個も何個も確かに入っていた。目の前に札束があるということが夢ではなく、本当に現実であったことが嬉しかった。何度も本物の札束であることを確かめた。偽物ではとも考えたが、いつか自動預け払い機で確かめればいいと思い気にしなくなった。
 その日は会社に出社した。休んで今後のことを考えようかともしたが、遺失物を警察に届けないことで、横領の罪に問われることの可能性を考えると怖くなった。もし持ち主が現れたときに遺失物探しが始まり、マンションの防犯カメラに映っているであろう、箱をエレベータに押し込む私の姿は、一番疑われることが明白であった。その場合、会社に行かなければならなかったので届けるのが遅れたと言い訳するために、出社してアリバイ作りをしないといけないと考えたのだった。大金と離れるのが辛かったが戸締りを何度も確かめて部屋を出た。
 
 仕事を終えて部屋に帰ると居間の床に箱があり中身を確かめた。大金は確かに存在していた。その時の私は既に警察に届けることを考えてはいなかった。この先どうなろうと、この大金を手放すつもりはなくなっていた。警察に取り調べられる時が来ようとも、隠し通そうと考えていた。小分けにして部屋の外に持ち出し、実家の土地に埋めた。仮に警察が私の部屋に踏み込んできても、お金は存在しないという状況を作りたかった。私は3カ月間何度も埋めた位置に行って、掘り返されていないか確かめた。数回は掘り起こして大金を実際に確かめた。3カ月も過ぎると段々と警戒心や罪悪感が無くなり、事件性があるならとっくに私を取り調べに来るはずだと考え、すっかり居直ってしまった。もう大丈夫だと思ったのだった。
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