第15話

文字数 1,172文字

彼女からの電話だった。

「動画見た?」

「何の?」

「さっきの代理人がネットにあげている動画よ。知らない?」

私は彼女まで間に入ってくるなら面倒だと思いさらに絶望した。

「どうする?あの代理人と戦わない?」

私は驚いた。

「どうやって?」

「取られないようにお金を守る争いをしましょうよ?」

私は彼女の狙いが分かった。

「私の金だ」

私は怒鳴った。

「知ってます。こうなったらあなたのお金でいい。
 しかしお金を守れたら私にも分け前をください」

「どうやって戦うんだ?」

「私の知り合いに法律家がいるから、相談する」

「勝ち目はあるのか?」

「戦わないと負けるよ!」

「だから負けをいかに少なくするか考えているんだ」

「馬鹿なことを言ってはだめ。相手はプロよ。いくらでも持っていこうとするわよ。負けないように頑張るから初めてこちらに残るし、取られずに済むの。まずは作戦会議をしましょう」

 彼女が言っていることは一つの意味を成していた。しかしその労力を考えると徒労に思えてならなかった。そもそもは私のお金ではないのだ。そこに後ろめたさがあり、私は少しも乗り気になれなかった。彼女は唐突に、

「あなたが持っているお金は本当に彼らのお金かな?」

私はその言葉に少しの光を見たのは事実だ。

「本当に彼らのお金ならもっと早くに来ない?警察を使わない?なぜ今頃になってから来るの?きっと明かせない事情があるはず。それを調べましょう」

「なるほど」

「落としたお金がそのお金であることの証明をさせるべきよ」

「しかし映像には箱を押し込む私が映っている」

「お金が映ってはいない」

「なぜ彼らはお金だと言えるの」

「そしてそのお金が彼らのお金であることの証明が必要じゃない」

確かに証明されるべきことはたくさんあった。例えば私が持っているお金が盗んだお金なら盗まれた相手に返すべきであるという理屈が私の中で浮かんできた。それを確かめて返すべき相手に返そうと思った。そのためにも代理人とされるその男に会う必要があると思った。一晩考えさせてもらえますかと私は彼女に言って電話を切った。他人が得するのを見ていて、悔しくなる気持ちを嫉妬心というなら私にある気持ちは嫉妬心であった。しかし本当の持ち主に返したいと思う正義感もあった。手に入ったお金を自分の手の中に置いておきたいとする強欲もあった。全く本当は自分のお金でないことも分かっていた。だから私を苦しめた。様々な気持ちに苛まれてすべてを放棄したいとも思った。しかし結局は自分の手からはお金を離したくはなかった。そのとき最も強かったのが強欲であった。合法的に手に入れたお金ではないが、取られるなら合法的に取られるべきだと思った。盗人猛々しい気持ちであった。こんなに苦しむなら最初から警察に渡しておけばよかったとも後悔した。様々な気持ちが渦巻いていた。私は毛布を被って眠った。
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