第8話

文字数 2,392文字

迷いの森、リヴェルの元を出発し、次はエイリーンのため神の塔に向かうコウルたち。

まずは中央大陸に向かうべく、港町の方へ戻り始めた。

道中、何回かモンスターに遭遇するも、リヴェルの元で鍛えたコウルの敵ではない。

行きよりもはるかに早い時間で港町に帰ってくる。

早速、中央大陸に向かう船を探すがーー。

「中央大陸に行く船はない?」

港の人々にそう言われる。

中央大陸は中央大陸と呼ばれてはいるが、

その実、人はほとんど住んでないといわれ、そんなところに船を出す人はいないとのことだ。

「……どうする?」

「ポムさんたちはもういませんし……」

二人が途方に暮れている様子を見て、一人の町人がからかうように言った。

「小舟でいいならやるぜ?」

だが、コウルたちはそれを聞くとーー。

「それでいいです!」

すぐさま返事をした。

「いざ、中央大陸へ!」

二人を乗せた小舟。コウルはそれをせっせと漕ぎ始める。

それを見る町人たち。

「冗談のつもりだったんだが……」

「あれで中央大陸になんて無茶だよねえ」

コウルたちには当然聞こえてはいない。

二人は果たして中央大陸に辿り着けるのか。



数時間後、舟は海上にゆっくり漂っていた。

コウルが漕ぎ疲れてしまったからだ。

「わたしが漕ぎましょうか?」

エイリーンが言うが、コウルは首を横に振る。

「エイリーンさんにさせるわけには……」

ならと、エイリーンはコウルの漕ぎ棒をひとつ取り「一緒に漕ぎましょう」と言う。

エイリーンの輝く瞳に見つめられ、コウルは苦笑いしと了承する。

二人はゆっくりと中央大陸に向かっていく。

しかし、数日後……。

「着きませんね……」

「そうだね」

二人は休憩して、舟は風の流れのままに漂う。

何故小舟で行けるのかなどと思ったのか、コウルは自分の浅はかさを恨んだ。

だが、エイリーンはというと。

「コウル様との舟の上の生活は楽しいです」

その言葉にコウルは真っ赤になる。

ただでさえ、狭い舟の上で二人きりだというのに、エイリーンはなんとも思わないのかなあ、とコウルは思う。

だがエイリーンも、今のは勇気を出した一言だと、コウルは気づいていなかった。

さらに数日、そろそろ食料が少なくなってきた頃、ついに中央大陸が見えてきた。

「つ、ついた……」

小舟を岸に近づける。そこから見えるのはひとつの線。

「もしかして、あれが……」

陸に上がり改めて線を見る。それは天をも貫く長大な塔。

間違いなくあれが『神の塔』だとコウルは感じた。

神の塔へ向けて二人はひたすら歩く。

道なき道を真っ直ぐ真っ直ぐ、コウルとエイリーンが初めて出会った荒野よりも、何もない野を。

食料がなくなりそうな頃、ついに二人は塔にたどり着いた。

「はあ、ついたあ」

入り口で息を吐くと、コウルは塔の扉を開ける。

中は綺麗な装飾がしてあり、その中央には螺旋階段。

「まさかこれを上るの?」

外から見た塔は天を貫いている。螺旋階段も上の終わりが見えない。

「でも、行くしかありません」

エイリーンが先に階段を上り始める。コウルは慌てて後を追った。

しばらく上ると、広い一角に着く。中央には台座のような物がある。

「これは……」

エイリーンが台座に触れる。

エイリーン、そして台座からまばゆい光が放たれ、外から見ると塔全体が光の柱に包まれた。

「これはーーエイリーンさん!?」

エイリーンが光に包まれている。コウルは近づこうとするが光は収まった。

「大丈夫? エイリーンさん」

「……全て思い出せました」

「え?」

その時だった。

エイリーンの背後に二つの影が降り立つ。

「おかえりなさいませ。エイリーン様」

「ありがとう。ワルキューレたち」

二つの影、ワルキューレに声をかけると、エイリーンはコウルに向き直る。

「コウル様、来てください。招待します」

「招待? どこに?」

塔の螺旋階段とは別に光の階段が出現する。

「神界へ」



エイリーンとワルキューレに連れられ、光の階段を上るコウル。

しばらくすると、コウルの視界が光に遮られ、気がつくと、神殿のような場所にいた。

「ここが、神界?」

「はい」

ワルキューレが答える。だがすぐに、神殿の奥に進み出す。

コウルはついていくしかない。

そして神殿の最奧。

コウルたちの前にいるのは女性。偉い立場なのか、座る椅子は高い。

「エイリーン、戻りました」

エイリーンが目の前にいる女性にひざまずく。二人のワルキューレも。

コウルも空気を読んで、その場にひざまずいた。

「よく戻りました。エイリーン。私は心配していましたよ」

「申し訳ありません」

「責めているのではありません。本心ですよ」

「あ、ありがとうございます。『エイナール』様」

(エイナール?)

それはたしかエイリーンの名字。それを名前に持つ彼女は一体何者なのか。

「そして、コウル」

「は、はい!」

急に自分に話が振られ、コウルは驚く。

「よくエイリーンをここまで連れてきてくれました」

「い、いえ」

慈愛に満ちているが、その雰囲気は逆らえない圧をコウルは感じる。

「質問してもよろしいでしょうか?」

コウルが立ち上がって問う。

「貴女は何者なんですか」

「そうですね。貴方はまだ知りませんでしたね。エイリーン、教えてあげなさい」

「はい」

エイリーンも立ち上がり、コウルの方を向くと宣告した。

「このお方は、この世界を司る神属の一人。女神エイナール様です」

「女神……?」

「そしてわたしはその下に仕える、女神見習いエイリーン・エイナールです」
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